ルキナ・ハイアルンはすっかり困り果てていた。

真っ白な風景の中に紛れる、朽ち果てた機体の数々。
見たことあるものも、初めて見るようなものもあった。
しかしそのどれも、動くことを止めて、力尽きた獣のように、荒れ野の中に放置されていた。

この16年間。人間と同じくらいの数の機体に囲まれてきたルキナにとって、目の前の光景は死体の山も一緒だった。だからもちろん、気分のいい光景ではなかった。
"残像領域"。もちろん知らないわけではない。
本の中で、あるいは自社のライダーから話で。知識としては知っていた。

「やあね。気分が滅入ってくるわ…まさか残像領域にきちゃうなんて…」
モニターを閉じて、紅茶を一口啜った。
ここに来るのはハイドラライダーか、物好きな傭兵くらいだと聞いた。
しかしルキナはそのどちらでもない。
「お父様、今頃心配してるかしら…」
気落ちした様子でため息をついたが、それに重なるようにガチャンと、乱暴に陶器がぶつかる音がコクピットに響き。

「いいえ！お父様がいけないんだわ！なぁ～にが…お前に設計士は無理だ。現実を見ろ。よ！
そっちこそ現実を見なさいっていうのよあの分からず屋！
ちゃっかり私の発想を横取りして我が物顔で採用してるのは誰よ！知らないとでも思ってるのかしら！横暴にもほどがあるわ！」
あらん限りの声で絶叫すると、肩で息をしながら乱れた長い金灰色の髪を手櫛で整え。こほん、とひとつ咳払いをした。
「この"ナヴィガトリア"だって…私が……」
倒れるように背にもたれると、そう小さくぼやいた。
「絶対認めさせてやるんだから。でなきゃ私が会社を立ち上げて独立してやるわ。
そうよ、ミンもエーオースもいるし…モネタは反対しそうだけど。
操縦だって、この子のシステムは私が手がけたようなものだし。大丈夫。すぐにまるで自分の手足のように乗りこなせるようになるんだから。大丈夫よ」
ふんぞり返りながら操縦席に座りなおすと、再びモニターを映し出し、映像を前に唇を噛み締める。

「私一人でもやれるって、証明するんだから…！」