「話が違ぇぞ…ナヅナのババアと合流できる手筈じゃなかったのかよ…」
　机に突っ伏したオレの文句は倉庫中に木霊する機械の駆動音にかすんで消える。見なくてもわかる。今オレがくだ巻いて突っ伏している背後では無残な姿になったオレの相棒がまさに修理を受けている最中なのだ。
　両機の申請をすればすぐにでも回してもらえると思っていたのにこれは一体どういうことなのか。俺たちを雇い入れた連中の怠慢なんじゃないだろうか。
「あ、あの…キースさん」
　答えの出ない堂々巡りを滑車を回る愛玩齧歯類のように続けていると、作業の音に混じって女の声が聞こえてくる。この特徴的な掠れ声はドロシーのものだ。
「…なんだ」
　顔を上げる気力もない。
「いや、その。ちょっとお伺いしたいことがあるんですけれど…」
　この間の剣幕がウソみたいな震えた声である。おそらくこれが余所行きの態度なのだろうが、いずれの態度にしても追い詰めたネズミのような態度はやはり腹が立つ。
　が。
　しかし。
「えーっと…今回の任務の報酬って…」
　ある程度予想していたことではあったが、ドロシーのその言葉にオレの苛立ちは焦りへと変わった。顔が引き攣るのを突っ伏したまま隠す。
　ドロシーは上の連中が派遣してくる戦況オペレーターとは違い、俺が個人的に雇い入れたオペレーターだ。前は建設現場にいたとかでオペレーターとしちゃあ本当に最低限の事しかできないグズだが、前回の召集で機体をぶっ壊されて本格的な修理をする金すらない今の俺にとっては、壊れた機体の性能不足を補うためにも専属のオペレーターは必要であり、格安の報酬でＯＫを出したこの女には正直助けられている。
　だが当然オレが個人的に雇い入れている以上、報酬を払うのはオレであり、任務ごとに発生したギャランティのいくらかを渡しているのであるのだが……。
「ねぇに決まってんだろ」
「そ、そんなぁ…」
　悲嘆にくれる様な声が返ってきた。
　ない物はない。スカンピンだ。
「そ、それじゃこれからワタシ達どうやって生活していくんですか！？　この賃貸倉庫の家賃だってはらえないですよ！　ねぇキースさん！　キースさんてば！」
（あーうるせぇうるせぇ）
　喉まで出てきた言葉を飲み下しながらオレは両手で頭を抱え込んだ。
　…こんなんでこれからの傭兵稼業やって行けるのだろうか。まだこのキズをもらったうどん野郎の顔もまだ拝んじゃいねえってのに。
（…ババアにタカるか）
　プライドも何もあったものではないことに思い至りながら、俺はドロシーの文句を寝たフリでやり過ごした。