機械の脚が地面を蹴り、霧を掻き分けながら、反体制組織の元へとクトレットラが駆ける。私たちが来ることは察知していたのだろう。現れた迎撃部隊は明らかに私の手には余る勢力で、共に出撃した仲間に上手く指示を出す事も出来ないまま、私はあっけなく撃墜されて拠点へと撤退せざるを得なかった。演習と実戦はこんなにも違うものだったのか。なんて、在り来たりの感想を抱いてベッドへと沈んだのが、今から12時間ほど前の話だった。
　ベッドの上に転がっていた、みかんを手に取って眺める。置いて行ってくれたのは先輩だろう。昔から柑橘類が好きで、暇さえあれば食べていて、手が黄色くなったのをからかわれる事も多かった。撃墜出来たのは敵、7体に対して、2体。及第点にも及ばないだろ結果だろうに、クルー達は私が無事に帰ったのを喜んでくれたのが、救いだった。でも、今だからまだ許されているに違いない。結果を出さなければ、先輩や隊長にきっと迷惑が掛かってしまう。

「………、」

　此処を追いだされたら、行ける場所なんてない。力を付けないと。機体について、パーツについて、戦い方について、ありとあらゆる戦う術を―――だって、私の今いる場所は戦場だ。一歩間違えばあっけなく死んでしまうような、そんな世界だ。テレビの向こうにだけ広がっていた霧かかった世界が、今の私の居場所であることを改めて実感する。どうにか生き長らえて家に帰る方法を見つけるまで、私は、

「っわ、…！」

　ぽーん、ぽーん。ベッドに横になって空へ放っていたみかんが、手を滑り落ち、私の鼻に直撃する。痛い。鈍く痛む鼻を思わず押さえてひとしきり悶えてから、涙目でみかんを手に取って、私は起き上がった。考えている間にも、次の出撃の時間は近付いている。いつまでも悩んでいる事も出来ない。
　みかんを手に持ったまま、部屋を飛び出す。こういう時は少し走ろう。走って、クトレットラと先輩の元へ行こう。怪我の具合を確かめて、パーツの話を聞いて、それから考えるのが良い。此処での生活は始まったばかりだ。駆け出しなら駆け出しらしく、今、出来る事からはじめていかなければ。せめて、先輩の足を引っ張らないように。