「また無茶をしたな」

「仕方ねぇだろうがよ」


　機体の整備をしていたファストが俺に視線を向けてくる。猫の目の様に細められた瞳にはからかいの色があった。今回の負け戦のことを言っているのは明白だ。


「撃墜とはね」

「慣れないモン扱ってんだしこないだ勝ったのが運が良かったんだってーの」


　ボヤけばアイツは低く笑った。それを緩く睨みつつ思う。実際、慣れないものを扱うのは正直シンドイ。若いころならそれでも勢いで何とでもなるものだが、もうそれなりに俺も歳だ。元々頭もそれほど良くない上に記憶力も低下してきてる現状、こんな複雑な機械を扱うのは結構難易度が高い。
　とはいえ泣き言を言ってばかりも居られないのは確かだ。コイツを扱えるのは現状俺だけなのは確かで、今のところこの『世界』での戦場で使える戦力はコイツ以外に無いのも確かなんだから。


　見上げる先には大きな機械が鎮座していた。獣にも似た形状のそれは、『星海ゲート』でふっとばされた先の遺跡の中で見つけた機械だ。最初見た時は機甲の兵士の型違いみたいなもんかと思ってたんだが、ぜんぜん違うらしいのは後で分かった。
　一番違うのはコイツがこの世界に漂う『霧』を動力源にしてるって所だろうな。あっちは確かデンキ？とか魔力とかなんか別のモンを動く糧にしてるって聞いたこともあるし。それだけでも技術力の違いとかが浮き彫りになる、とかファストは言ってたが俺には正直良くわからない。

　何にせよコレが俺達の知るものとは違う異文明の技術で作られた兵器だ。幸いだったのは、全く原理やら何やらも判らない俺にもコイツが扱えるって事だな。何かその辺はアイツがごちゃごちゃ言ってた気はするがやっぱりよく理解してないのでどうでもイイ。そりゃ仕組みとかだって大切だろうし知ってりゃいいこともあるんだろうがね。でもそんなもん知らなくても使えるものは使えばいいってのが俺の心情だ。魔術の原理なんざ判らなくても、魔術のスクロールを使えば術式は発動するのに似てるのかもな。


　こないだの戦闘で撃墜されちまってはいたが回収は出来てる。ファストにまかせて俺は一旦休んでおくとするか。
　修理だの何だのはさっぱりだし、手伝いったって精々重いものを運んだり支えたりする程度しか俺には出来ない訳だし。ならばちゃんと体調を整えて次に備える。それが一番ってこった。

　やることを決めて俺はさっさとその場を後にした。
　勿論後ろから投げられたスパナはひょいと躱して。アイツ、相変わらずアブねぇことしやがるぜまったく。