ガレージの隅で少女が二人踊っている。ロングヘアーとツインテールの彼女達は、目鼻立ちこそ幾らか違うが、よく似通っていた。錆びた橙から透き通る金にまで変化する髪色。紫と橙の、色違いの瞳。揃いの、学生じみた服を着て、腰からはケーブルのような尻尾が伸びている。二人がターンする度、長い髪とスカートと尻尾がくるりと弧を描いた。少女達は微笑みを浮かべているが、互いに会話をする様子はない。時折、踊りにあわせて短いメロディーを口ずさむだけだ。歌詞のないヴォカリーズ。
その傍らで、一人の青年が何事か作業している。髪の色も制服もケーブル状の尻尾も少女達とそっくりだが、彼の瞳は両目とも橙だ。翼のような癖毛が頭の両側から飛び出している。三人とも人形のような風貌であったが、青年はその無表情さのために殊更作り物めいて見えた。
青年は手元のチェックリストを確認しながら、ウォーハイドラを丁寧に整備している。奇怪な風貌の機体である。その顔には、涙と涎を垂れ流し慟哭する表情が図案化されて刻まれている。頭部から生えた茨の冠のようなものは、どうやらアンテナかレーダーの類らしい。上半身は人を模しているようだが、下半身はムカデのように連なる胴体と複数の脚からなっている。目にした大抵の人間から眉をひそめられそうなそれを、青年はいくらか親しげな手つきで整備する。
「よーう、やってるかあ」
不意に声をかけられ、青年が顔を上げた。ガレージの入り口に、小柄な細い影が立っている。
「リビー、来ていたのか」
「こんにちは！」
「調子どうよー？」
青年に続いて、少女達も踊りながら声をかける。三人で一人のバーントイエローから口々に歓迎され、リビーと呼ばれた男は肩を竦めながらガレージへ入ってきた。
「まあまあってとこ？ しっかし、お前ら本当仲良いなー。喋るの息ピッタリじゃん」
彼は先日イエローの僚機となったウォーハイドラ「黒金乱眼」のパイロットだ。些か気分の上下が激しいが、その腕に問題はないと言うのはイエローにも分かっていた。
「仲が良いと言うか、同一人物だ。以前も話したが、おれはスペック違いの端末を複数所持しているに過ぎない」
青年のイエローが答える。
「んじゃ、何だ、ここで整備してんのもあっちで踊ってんのも、おんなじ奴ってことか？」
「そうですね、端末三つで一人分です」
「せーびはそっちの方が得意だからお任せしてんの！ でもこっちも動かさないとなまっちゃうからさ！」
「あなたも手持ち無沙汰になれば、両手を組んだりするだろう。それと同じようなものだと思えばいい」
そう説明はしたが、相変わらずリビーは首を傾げている。
「……変わってるよなー」
「説明しづらい事ではある。すまない」
「まあ、慣れて来たから良いんだけど。そうだ、今日のミッションどうするよ？ それ聞きたくて来たんだよ」
リビーの言葉に、イエローはツインテールのイエローで最初に反応した。
「あたし火炎放射器はもうヤだな〜。出ないやつにしよ？」
「あー、鬱陶しいしなあ、機体炎上すっと」
「ミッションリスト確認しましょうか。取って来ますね」
今度はロングヘアーのイエローを動かす。踊るのをやめて、ぱたぱたとガレージの奥へ走らせる。ツインテールのイエローはその場でくるくる回らせておく。
確かに耐火性には難があるなと考えながら、イエローは青年のイエローをウォーハイドラに触れさせる。
機体の背中から突き出た、黒い操縦棺が視界に入る。その中にいる、降りることのない四人目を思う。彼とバーントイエローは接続されてはいるが、情報のやりとりは一方通行だ。バーントイエローの情報は四人目に送信されているが、四人目から情報が来ることはない。だからバーントイエローは四人目の姿も、名前も、性別も知らない。だが四人目がいなければバーントイエローが存在できないことだけは知っていた。
バーントイエローにとって四人目はパイロットであり、生命線であり、ブラックボックスであった。
ウォーハイドラと三人の端末、それら全てが「バーントイエロー」だ。だがあの操縦棺の中身だけは、四人目だけは違う。
そう思う度イエローはいつも、端末の胸が内側から焦げるような感覚を覚えるのだった。