◆Overclock◆
あの＊勝利＊からの3日間。
パイロットデッキで白目を剥いて気を失っているイルネスをベッドに運び、医師の精密検査にかける。
至高回路の使用でダメージを負ったイルネスだが、幸いにもそのダメージは問題無く回復可能との事だった。
とはいえ、回復するまでの3日間は絶対安静。その間は、私がイルネスの分まで動かなければいけない。

「ジェネレート：インターフェース02 -50p;
　ジェネレート：インターフェース03 -50p;」
コマンドを発令し、本体のナノマシンを使用してインターフェース2号機、3号機を生成。
1号機はイルネスの側で看病を継続。2号機、3号機はきりしま、Demiurge2号機のメンテナンスを実施。
インターフェースを3機同時運用するのは処理が追いつかなくなるため、システムリソースの割当を減らしてはいるがそれでも結構な負荷がかかっている。
それでも、やれる事は今のうちにやっておかなくてはならない。

次ミッションについてをまとめるため、視界内にミッションデータを表示させる。
防衛ミッション、破壊ミッション、大規模破壊ミッション、殲滅ミッション、データ回収。
うち―――１件は――――未確認機の―――処理―落ちし―――ている――
空きリソースを――作らなければ―――――インターフェース1号機の―――制御関係優先度―――最低に変更―――
制御優先度を失ったインターフェースが崩れ落ち、その頭部をイルネスが寝ているベッドに預ける。
バイタルはモニターしているので、何かあれば1号機の制御優先度を戻して対応に当たればいい。
この姿勢のまま、2号機と3号機にリソースを割いて修理換装作業を行っていく…。

ミッション検討や修理換装作業でほとんどリソースを喰われた状態だが、僅かな余剰リソースを使って少しづつ思考を進めていく。
気になる事は、既に破壊されたInnovator型AI壱号機、Innovatorの事だ。
戦闘で得られたデータやサルベージした敵機体を遅々としながら解析し、気になった点があった。
この機体スペックでは有り得ない戦闘機動。理論上の限界値を超えた性能。
まるで、ソフトウェアでハードの性能を限界以上に引き出している。…これには、辞書内にメモリーされたある思想に類似していた。

HOS思想。
ソフトウェアでハードの性能を目一杯引き出すという設計思想。
民生用ハイドラのOSの一部は、この設計思想をベースにしつつ操作系を共通化させるという作業現場向けの代物である。
それを先鋭化させたような機動をしている。
こうして考えると、Innovatorは私と似て非なる代物だ。
ソフトウェアでハードの性能を限界以上に引き出し、個で戦うInnovator。
ソフトウェアでハードの性能を限界以上に引き出すよりも、お互いに先導し合うパートナーとの連携で戦う私。

…Innovator型AI壱号機、Innovatorとは、本当に私の姉妹機であるのか？