整備工場。
真上に向けた首が痛い。
雲母坂研究所製飛行型ウォーハイドラ・霧渦城の、基幹部以外の装備については、機体が想定する動作に関わる性能をより向上させるためという範囲内において、赤砂歩理が自由に選定・使用してよい、と長い約定書の何枚目かに書かれていた。
パーツショップに注文したのは、軽量の操縦棺に、エンジン、高火力の近接戦闘装備。あと、小型だから音質はよくないけれど、オーディオ機器もこっそり組み込んでしまうことにした。
代わりに、整備士の手によって、いくつかのパーツが取り外されていく。

“お前の望む機体というのは、常に危険と隣り合わせにあるということをまず、理解しなければならない。”
電子メールの無機質な文字が、そこだけ鈍く重たい刃物になって、胸にめりこんでくるようだった。
……“さもなくば落ちる。”

(何かを得ようとするならば、何かを手放さなければならない。)

次、撃墜されたら、死ぬかもしれない。
機体から直接伝わる衝撃と、神経液を介して感じられる衝撃とが二重になって、ジューサーにかけられたようだった、最初の撃墜。
けれどわたしにとって、「死」から真っ先に連想されるのは、もっと昔の体験だ。
海で溺れかかったとき。

ひとでか何かを、深いところに見つけたのだった。近付いてみて、浮き上がろうとして、ふとした拍子、息を吸うのが早かった。
頭の中に海水が流れ込んで、重さのバランスを失い、上も下もわからなくなって、手足をばたつかせるしかできなくなった。
パパが近くにいたから、すぐにわたしは助かった。
だけどあれ以来、海へ行きたいと言って、連れて行ってもらえたことは無い。

……霧渦城を守っていた装甲が工場の隅に置かれてゆくのを、わたしは車椅子から見る。
すっかりペンのようになった機体の、中心よりやや前のあたりにはっきりと、膨らみが見える。高速起動を行っていても敵機体には見えるだろう。あそこに操縦棺が収まっている。
速く速く飛ぶうちに、わたしの命が霧に揉まれて失くなるのなら、それでもいい。
海の中にいるときだけ、わたしがどこまでだって行けたように、このハイドラはわたしを地平線の彼方まで連れて行ってくれるだろう。