遺跡までの道のりはそう険しくもなかった。とは言っても人の手の入らぬ未開の地である事に代わりはない。足場は悪く、勿論、その道中は街道が在るわけでもない。道無き道を渡された地図とそれを更に幾分か盗賊ギルドの情報で補った詳細メモを手にエールステゥは黙々と歩を進める。


　ファストやガルムと偶然のタイミングで出遭い依頼を願い出たという賢者の塔の関係者のもとに赴き、当時の状況や依頼内容を改めて確認しなおしたのがつい先日のこと。先方も戻らない冒険者にどうしていいか判らず悩んでいたようで、同じパーティーの者だと名乗り出るとホッとした様な表情で自分たちを出迎えてくれた。
　彼らもまさかそんなことになるなんて予想外だったのだろう。確かに古代技術は未知のものだ。何が起きてもおかしくない。研究者ならば尚の事、その事実は嫌というほどに理解している。それでも、やはり思うのだ。……まさかそこまで大事になるとは、と。

　自分と仲間が、行方不明になった面々を探して調査を続行する事を申し出ると依頼人は申し訳無さそうに頭を下げた。さすがに人命がかかっている。無事で居て欲しい、と思うのは当然だろう。……もっとも、その不安の中には追加の危険手当やら何やらの心配も無かったのか、といえば多分嘘になるのだろうが。


「にしても良かったのか？」


　訝しげな声が後ろから響いた。振り返れば一人の青年が荷物を抱えたまま悪い足場を飛び越える姿が見える。彼は、片手に細長い筒やら何やらで構成された得物（俗に言う、銃という奴だ）を手に油断なく周囲を見回しながら、エールステゥへと問の声を投げる。


「追加費用は無料、とか。赤字になるんじゃないのか？」

「その程度はどうとでもなるよ。……さすがに今回はこっちのミスも可能性としてはあるしね。大体、賢者の塔のマトモな清貧研究者からそこまでSPを絞りとっても良いことはないし」

「アンタ、古代遺跡の研究者にはちょっと甘いよなぁ……」


　まあ俺としては有り難いが、と肩を竦めて見せる彼はリードリットという。同じ『黄金の竜翼亭』を拠点とする『星海の迷い仔』というパーティのリーダーだ。『竜狩人』の中で無事だった面子を集めても基本的な人数には足りず、それでは対処しきれないかも……と申し訳ないながらも助力を頼んだのだ。
　彼はなんでも違う世界から飛ばされた異界人で、しかもこの世界における古代文明と似た文明形態の土地からの来訪者なのだとか。今は元の世界に戻る為の技術を求めているらしく、この星海ゲート関係の事件は彼にとっても嬉しいものではあったらしく二束三文で飛びついたのを思い出す。


「で、目的地まではまだかかりそうなのか？」

「もうちょっと、ってトコかな」


　後一刻程度、と告げれば苦い顔をされた。まあそれもそうか、と小さく笑いながら地図を手に前を向く。目的の遺跡にあるという星海ゲートとはどんなものなのだろう。そんな事を、考えながら。