複合体計画第四世代機『バーントイエロー』は一機の機体と三つの端末、そして常時機体に「接続」されているパイロットから構成される複合体である。
ミッション中に機体を操縦しているのも、生体部品で構築された三つの端末を動かしているのも同じAIである。
国の直接的な指令系統から離れ、現地のオペレーターに従いながら自己判断で活動する以上、バーントイエローには知的生命体とコミュニケーションが可能な外見とパーソナリティが必要とされた。
そこで用意されたのが三つの端末である。彼らはパイロットの肉親であり、接続においてもっとも相性が良いとされた。……表向きには。




ロングヘアーの少女の姿をしたバーントイエローは、他の端末から幾らかの遅延をもって起動した。
遅延の度合いは日に日に酷くなる。最近では端末間での同期にも苦労するほどだ。
ロングヘアーのイエローには……「彼女」は、ここのところ、他の端末達が自分ではない別の存在であるような錯覚すら覚えていた。
三人のイエロー達は体を分けているだけで根は同じ、機体の中の人工知能だ。だから見ることも考えることも同じ、はずだった。
それがどうだろう。最近では他の二つの端末からの情報が極端に遅れてやってくる。彼女が同期した時にはもう、他の二つは新しい情報を受け取って処理を行っている。
まるで別個の存在になってしまったようだと「彼女」は考える。この考えが共有されているかも分からない。最近では同期することすらできず、端末からの目視や口頭で状況を確認する始末だ。
幸い、機体との同期に関しては（どう言うわけか）支障はほとんどない。
と言うよりも。

（返せ）

「彼女」が機体の中にいる間、蝿の唸りのような声が、ずっと、耳の奥に響いている。
これは他の端末には感知されていないようだ。

（返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ）

機体との同期に支障はない。
その代わり、彼女に機体を動かしているという実感もない。
彼女の代わりに誰かが、バーントイエローの右半身を動かしている。誰にも気づかれないよう密かに、彼女の制御が乗っ取られている。そんな感覚がある。
だが何故だろう、彼女はそれを他の端末にも、僚機のパイロットであるリビーにも、その異常を伝える事ができずにいる。
元々、彼女の生体頭脳に入っている語彙はとても貧相だった。だからこの異常な状況を上手く口にすることができない。
そして、何よりも。
機体の中で彼女を乗っ取っている何者かが、彼女の口を塞いでいる。機体から降りてもなお、彼女の制御の一部を奪い取っているような。

彼女はただ一人、元は同じであった端末達と全く共有することなく、侵食されてゆく恐怖を鮮烈に感じていた。
だがそれを表現する手段もまた、彼女からは奪われている。