(紙媒体、セキュリティレベル∞)

任務７日目

何点かの、特記しておくべき事実。

アニーとアズナヴィールの状況について。

アニーは国家に保護を依頼する手筈を整えている。
彼女のことだ、どうにか上手く立ち回ることだろう。
だが、アズナヴィールはそうもいかない。
少なくとも、アニーに加担、ないし協力することや、
教会の行動を妨害することは立場上、非常に難しい。
本人だけでなく、会社組織そのものへ危険が及ぶ可能性があるからだ。
自分以外に危険を強いるような行動をとることは、アズナヴィールにはできそうもない。

同様に私自身も、表立って対立することは好ましくない。
会社としての立場はもちろん、ペルニュエルとの約束もある。

尤も、教会の側が律儀に契約や約束を遵守するとは限らない。
だが、いずれにせよ、立ち回りは慎重に判断する必要があるだろう。


結論から言えば、教会の目的は口封じと、見せしめなのだろう。
だとすれば、アズナヴィールはすでに内情を知っている。
“ゼヴィル”は教会の隠蔽工作に気付いている。
そして、両者の後ろ楯となる組織は、教会に対抗できる勢力を有していない。

両者共に、現状を対話や取引で打開する有効な手は見出だせない。

ならば、武力に訴えてはどうか。
ベーゼの言葉や、シェアトの身体能力を参考とすれば、
個々の歩兵としての戦闘能力は非常識なほど高い。

だが、目に見えて厄介な相手の数は、片手に収まるほどの少人数だ。
“鴉”の情報を信じるならば、ＷＨは４機が存在しているに過ぎない。

対して、こちらが手駒として使えるのは、ベーゼ、バラム、コルボ、アズナヴィール、クヴァルレ、そしてゼヴィル。
計６機のウォーハイドラを動員できる。
十分とは言えないが、飽和攻撃をかけるとしても、
奇襲のために戦力を分けるとしても、数は多い方がいい。

まだ修理が終わっていないが、私のティーガーⅡも持ち出せば、さらに戦力は増強できる。
馬鹿馬鹿しい話だが、現時点で最も成功可能性が高いのは、この方法かもしれない。

だが、その場合、問題はこの地を逃れた後。
そして、報復攻撃をされかねない会社を、どう防衛するか。
……そのあたりは、私の管轄外だろうが。
何にせよ、ベーゼやコルボと情報交換しながら、秘密裏に進めるべきだろう。
安易な選択、迂闊な行動をするべきではない。



シェアトの動向も心配だ。

彼女は約束しておいた時間に現れなかった。
懺悔は必要ない……が、彼女自身が、何かに巻き込まれている可能性が高い。

……彼女をどうする？救いだせるのか？


いや、救い出さなくてはならない。
あの無邪気な笑顔を、枯らせてはならない。

私の命が永らえたのは、私の為であってはならない。
彼女を見殺しにすれば、私はきっと、後悔に自分の胸を撃ち抜くだろう。


全員が生き残り、この地から帰るため。
それを忘れないよう、ここにも記す。