今朝、バーントイエローは端末の一つを機能停止した。
ロングヘアーの少女の姿をした、かつて〝イエローであった〟ものが、目を閉じて寝台に横たわっている。

「どう言うことだ、こりゃ」

ガレージに様子を見に来たリビーが、困惑した声色で言う。

「その端末との同期が困難になった。おれ以外の存在から干渉を受けていた可能性が高い」
「干渉って」
「えっとね、誰かさんがね、勝手に動かしてた感じ？　あたしも散々調べたんだけどさ、誰かさんがどーやってんのか全然分かんなくて」
「……ハッキング食らってたのか？」
「それも不明だ。端末間の通信や同期は無線で行っていたが、それを妨害するような電波は確認できなかった。端末のメンテナンスも機体のそれと並行して複数回行ったが、どちらにも異常はなかった」

だが「彼女」の状況は日に日に悪化した。
ついには昨日の午後、全く同期ができない状況に陥った。それでも彼女は勝手に行動し、あちこちでパーツの情報を集め、どこぞのメーカーの営業から設計図まで買い取ってくる始末だった。

「だから、停めちゃった」
「今まで害はなかったが、これからもそうとは言い切れない」

現状、乗っ取られていた彼女が、イエロー達の不利になるような行動をとった形跡は（イエローの確認できる範囲では）なかった。
しかし、今後は分からない。彼女の制御を乗っ取った存在の目的が見えない以上、このまま黙って彼女を操らせるという選択肢はなかった。
しばらく黙ったままイエローの話を聞いていたリビーだったが、やがて硬い声で呟いた。

「イエロー、何でこんなになるまで黙ってた？」
「……結果として迷惑をかけてしまった。すまない」
「迷惑とかじゃなくて、結構ヤバいんじゃないのか。コレ、お前からしたら腕一本無くしたようなモンだろ？」
「ごめん、リビー。まだあたしだけでなんとかなると思っちゃったんだ。なるべく心配かけたくなくってさ」

口々に言うイエローの端末達に、しばらくリビーは渋い顔をしていたが。
やがて荒れ気味の金髪をがしがしと引っ掻き回すと、ため息混じりに言った。

「……また何か妙なことになったら、今度はちゃんと言えよ？　組んでからもう一週間以上やって来てんだ、水臭えのは無しで行こうぜ」
「ああ、分かった」

最悪ペアを解消されるかもしれないと覚悟していたのだが（〝様々な意味で〟具合の悪いパイロットを嫌がる者は多い）そうでなかった事に、バーントイエローは安堵した。
自分のような人工物でも、仲間がいてくれることに安心するのだなと、妙な感慨を覚える。

（……これは、自意識というもの、だろうか）

だからこそイエローは不安になる。
もしも全ての端末が乗っ取られてしまったら。
その時にイエローは、イエローの意識は、果たして存続していられるのだろうか。

イエローには分からない。