青年型のバーントイエローは、リオは、目を覚ました。
最初は信じられなかった。自分はパイロットのカブリールに制御を掌握され、機能停止させれていたはずだった。なのに何故、目覚めている？　……いや、そもそも、リオという名前は何だ？　どうしてそれを、自分の名前だと認識している？
いくつもの疑問を抱きながら身を起こす。少女型の二人のイエローも身を起こすのが見える。そこでリオは、もう一つの異変に気がついた。

「……イエロー！　起きたのか！」
ガレージを出た途端、リオは訪ねてきたリビーと鉢合わせた。「ああ」曖昧に笑ってリオは答える。うまく笑えているだろうか。表情の作り方も慣れなければならなさそうだ。
「お前の親父の言う通りだったな、明日には起きられるようにするって」
「親父」
そうだ、カブリールは父だった。イエロー達が人間だった頃の話だが。
リオは目を伏せる。彼には伝えなければならないだろう。
「完全には元通りではないかもしれない、リビー」
「は？　……まだ、どっか悪いのか？」
「いいや。寧ろ人間には近づいたと思う。ほんの少しだけれど」
後ろに立つ妹達を振り返る。ロングヘアーのヴェラと、ツインテールのアニカ。彼女らの顔には未だ困惑が貼り付いている。
「おれ達は、三人で一人の『イエロー』じゃなくなった。もう互いが何を考えているのか分からない。おれ達はあの機体の中にしかいられなかったけれど、父がそこからおれ達を引き剥がして、三つの身体に分けた」
今のリオには妹達の心も機体の状況も分からない。彼らとの接続は切られ、今や自分の身体だけが感覚の全てだ。それは妹達も同じだろう。三人のパーソナリティはまだそっくりではあるが、やがてそれぞれの身体に応じて変質し適応するはずだ。カブリールが望んだように。
　リビーは淡いブルーの目をぱちぱちと瞬かせていた。彼もまた困惑しているようだった。
「それは、お前らにとって良い変化なのか？」
「正直、おれにも分からない。これからどう転ぶのか……でも、他に方法がなかったんだろうな」
「……お前の親父は？」
「出て行った。おれ達に合わせる顔がないって」
カブリールは既にこの世から出て行ってしまっていたのだが、それはリビーには伏せておく。
「国」において人間の魂を操る術は禁術だった。必ず代償を伴うそれを、政府は罪人を生贄にする事で行使していた。だがここに罪人はいないし、誰かを連れてくる余力もない。だからカブリールは己の心身を代価とした。
合成され変質した子供達の魂を元に戻す事は不可能だ。ならばせめて、あの機体から解放し、それぞれの身体に分割して名前を与え、管理AI用の人工霊ではなくもう一度人として生きられるようにと、カブリールは術を行使した。
そして彼は消滅し、それぞれの名前と人格を持った三人のサイボーグと、管理AIを失った一機のウォーハイドラが残された。
「……それって結局、あいつの自己満足なんじゃねーのか？」
「ああ、そうだと思う。……でも、なってしまったものはしょうがないから。しばらくはあがいてみるよ。戦い方は覚えてるから、傭兵としては問題なく動けると思う」
自分の身体だけで感覚が完結する。その事実には未だ慣れないが、それでもやっていくしかない。そんなに悪い気分でもないし。
そうと決めたなら、まず最初にやらなければならないことがある。リオは姿勢を正し、リビーに向き直った。
「もう一度自己紹介させてくれ、リビー。おれはリオ・ミナスジェライス。ウォーハイドラ『バーントイエロー』のパイロットだ。妹のヴェラとアニカ共々、改めてよろしく頼む」
握手を求めて手を伸ばす。今度はもう少しだけ、うまく笑えた気がした。