ENo.0398　“Neon”

　
ほの暗い棺の中。
中空に投影されたスクリーンに、ネオングリーンの文字列が次々と流れていく。


『……電磁誘導システム、正常に稼働』
オペレータールームに詰めたスタッフの声。
響くそれを聞くともなしに聞きながら、意識を集中させる。

……犬の鳴き声。
座席の両側、手すり部分に設置されたセンサーのランプが、音に合わせて明滅する。
今グランが聞くべきは、他の何でもなくそれだけだ。
呼びかけるそれに、応えることだけ考えていればいい。


『コネクト良好、心拍・体温・その他生体反応に異常なし。接続を維持してください』

ぽう、と手に光が灯る。
両の手のひらから甲まで、貫通するようにそこにある感応装置。
宝玉にも似たそれは、彼の“犬”に対してのみ効果がある。


今は平時。
瞑目し安らいでも、誰に何を言われるでもない。
暖かい繋がりを感じながら、犬の背を撫ぜるように手を動かした。


□ □ □


「おつかれーっ」

格納庫に降り立ってすぐ、軽妙な声が飛び込んでくる。
見やれば同僚である少女が、ひらひらと手を振っていた。
はぁ、と小さく息をつく。
この子供のかしましさにはまだ慣れない。


「機体同調率のちゅーにんぐ？だっけ」
手持ち無沙汰に、自らの指にくるくると髪を巻き付けては離し。
相も変わらぬ落ち着きのなさ、それでもまっすぐにグランを見上げて、アウラは問いかけてくる。
「毎週きちっとやんなきゃならないの、大変そうね？」
その珠は綺麗だけど、と。こちらの手に何気なく伸ばされる小さな手。
……ひょいと避けて、後ろに下がった。

「別に」
不満げに尖る唇は見ないふりで、短く返す。
そのままふいと踵を返した。


その言葉に嘘はない。
……得意でもない言葉を無理やり捻り出すのに比べたら。
黙って犬を撫でていたほうが、よほど心楽しいというものだろう。

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