ENo.0423　クラウス＆ノストラム

「進路はどう？」

　穏やかな顔の青年が、前方へ声を掛ける。
　その声に振り向いたのは、ゴーグルを付けた青年。
　付けていたそれをグイと持ち上げ、無愛想な表情を見せる。

『心配いらねェよ、着くまで寝てな』

　ひらひらと手を振って、もう用はないとばかりに前に向き直る。
　その様子を見、穏やかな顔の青年は何食わぬ顔で続けた。

「いや、折角だから起きてるよ」

　背後の気配に目線だけを寄越せば、また前を向く。

『ったく、物好きな坊っちゃんだな。

　…っといけねェ、今は坊っちゃんじゃねェんだったか』
「うん、だから早く慣れてほしいかな。
　お忍びなんだ、身分は明かしたくない」
『いきなり人をパシってよく分からねェ機械を運転させた上、
　無計画な旅行に身分を隠せだァ…ホント、良いご身分だよな』
「うん、君には出来ないだろうね」
『嫌味だ』
「知ってる」
『知ってて言ってんのか』
「今更でしょ？」

　背後のクスクスという笑い声に、ゆっくりと息を吐く。

「それにしても、意外だなぁ」
『…なんだ、まだ何かあんのか？』

　うんざりとした表情で振り返れば、穏やかな笑みが彼を迎えた。

「君によく分からないモノがあるなんて、ね」

　その言葉に、青年は振り返り、ニヤリ、と笑う。

『バーカ、だからこそこれから理解すんだろうが』
「そう？なら、平気？」

　二人の視線が交わる。

『当たり前だろ、誰にモノ聞いてんだ？テメェは』

　そう答えれば、青年は前を向いてしまい。
　その背で、クスリ、ともう一人が笑った。

「頼もしい相棒で何よりだよ」

　これは、お坊ちゃんとその付添の、何でもない旅行記　…なのかもしれない。