「……騒々しいな。どこかの海賊ラジオ局が電波ジャックでも仕掛けてるのか」

　調達したウォーハイドラの補充パーツの微調整を自室の端末で片手間に行ないながら、エアロは施設中に流れる奇妙に雅な曲調のメロディーと歌声に、改めて顔をしかめた。
　後から聞いた話では、いわゆる季節の行事として行なわれるセレモニーに合わせて作られた古代の童謡の一種であるとのことだったが、文化風俗にそれほど興味のないエアロには特段心を惹かれるものでもない。

　「――足回りはとりあえず、これでよし。
　　あとはアサルトキャノンとレーダーの換装が必要だな……掘り出し物が出回っていてくれるといいが」

　エアロが好んで乗る軽量級機体の特性は、当然に『高機動・軽装甲』。
　機動性を高める代償として装甲を極力省略し、強度はともかくフレーム単位での総合的耐久性はタンクタイプや多脚タイプなどの重装型ウォーハイドラに大きく劣る。
　反面、いかに高い機動力を備えていても、それを活かす操縦スキルとパイロット・機体双方の高い反応速度が付随しなければ単なる『装甲が薄いだけの機体』でしかないため、生存と任務達成を最重視するのであればあまり選ばれることの無い機体構成である。

　だが――エアロは、機動兵器乗りとしての初陣以来、常に軽量級だけを己の愛機としてきた。
　そこには、単なる信念信条だけではない……彼女の他に知るもののほとんどない、他愛無くも深刻な理由があった。


　「……さて。見よう見まねで設計はしてみたが、少しは攻撃の幅を広げられるだろうかな。
　　かの“月光”には、及ぶべくもあるまいが……」


　端末に表示された高熱溶断ブレードの仮想性能の数値を見て取り、エアロがほんの少し表情を緩める。
　その表情には、単に兵器・武器の性能や諸元を愛好する者のそれではなく――もっと属人的な、己の崇拝や憧れの対象を思わせるような……そんな安らいだ笑みが、滲んでいた。