15年、一緒にいたおばあちゃんが死んだ。
あたしのおばあちゃん。
歌えなくなって3年、旅ができなくなって2年、歩けなくなって半年。
あんまり悲しくはなかった。あたしたちは、おばあちゃんが歌えなくなってからずっとお別れの準備をしてきたからだ。
だからおばあちゃんがいってしまった日にも、ついにそのときが来たんだ、とだけ思った。
あんまり悲しくはなかったけれど、ただ、とても寂しかった。

15年前にも家族を失くした。両親と、生まれたばかりの妹。
あたしは三人を置いて、この霧深い世界に紛れ込んだ。
だけど今はもう、親の顔も思い出せない。
なにしろあたしはすでに、生まれ故郷での時間の倍以上、ここで過ごしている。
それにこの世界には、あたしみたいなやつがいっぱいいた。
訪問者と呼べばいいのか、漂着者と呼べばいいのか、そういう人間たちが。
おばあちゃんももともと、そうした漂着者だったという。
だからってわけでもないだろうけれども、あたしはおばあちゃんに拾われて、おばあちゃんと一緒に生きてきた。15年も。
ただ、でも、おばあちゃんが死んで、あたしは今度もまた、ひとりになる。
最初の家族と過ごしたのが7年。おばあちゃんと15年。
次は誰と生きればいいんだろう。
次の家族は30年くらい、一緒にいてくれるだろうか。
次の家族なんて見つかるのだろうか。

まあとにかく、おばあちゃんはいってしまった。
あたしは自分で稼いで、自分で生きなきゃならなくなった。
募集の出ていた仕事に手をあげて、他の候補がいたのかいなかったのか、とりあえず採用はされて。

平たく言えば、監視員か、あるいは警護役。
実験用のウォーハイドラの僚機。
無経験のぺらぺらの新兵をよく、とも思うけれど、追求はしない。
廻帰財団アルファ・ラルファ。
これから一緒に戦場へと向かう機体は《トラップ・ドア》、搭乗者の名前はスピールティア・オー。
それだけがわかっていた。それだけしかわかっていなかった。