地平線に太陽が融けようとして、それを乳白色の大地が必死で受け止めていた。ぶるぶると震えている。
　そんなアナクロ映画のような情景の中を、場違いな煙が数本こちらに近づいていた。
　追手だった。もう何回目の遭遇だろうか。所属していたギルドの横っ面を張って飛び出してから、もう数日が経過していた。
　サブタンクもビーム・サプライヤーももう雀の涙で、ジャミングに回す余裕は無い。正面切って戦り合うしかないのだけれど、ロクに休んでいないこの鶏殻のような躰ではそれも難しかった。

　母さんなら、あんな奴ら手放し操縦で畳んでしまうのにな。

　駆動系のフウェル・メータが軒並み赤い。足を止めて撃ちあうしかない。向こうもそんなこちらの状況はお見通しなのだろう、適度に散開しつつ距離を取っている。少しずつ、詰める。極度の緊張によって凝集した視界。にやけたハイドラ乗りの口元だけが見える気がする。ギルドから出る報酬で一杯やることでも考えているのだろう。

　馬鹿にしやがって。
　悔しいなあ。
　ああ、悔しいなんて気持ち、ずいぶんと忘れていた気がする。
　
　牽制にもならないリッパー・ショット。シールドで払われる。こちらに向けられる銃口、銃口、銃口。西日を反射して茜色にぎらぎらと輝いて。
　
　その時だ。
　暗緑色に淀む空を破り裁ち。
　昏い剣のような機影が、まるで転移したかのような速度で私と追手の前に現れた。
　一拍遅れて、光圧レーダーががなりだす。
　アンノウン。アンノウン。アンノウン。
　ねじくれた剣の周囲には紅い霧が纏わりついていて、まるでそれ自体が生きているかのようにのたくっている。
　
　剣は咆哮を挙げる。
　氷塊が軋み裂ける音。星の芯を貫く溶岩の渦。女の金切り声。千の斧が千の骨を砕く音。無限に続く回廊を過ぎる空風の音。
　或いは産声にも。

　私は。
　私はそれを、見て。