第６話　～置物跡地～


ヨシノが姿を晦ましてより、およそ半日が過ぎた。

「ヨシノのやつめ。まったく何処へ行ったのやら……。」

炬燵の中で一人ごちる。
反対側に居座る人物の居なくなった炬燵の中は、どうにも広々として落ち付かない。

「奴の行動圏は、あらかた探り尽くしたはずだぞ。
　行き付けの雑貨店、機械売り場、電気用品店、それに兵器商人もだ。
　だのに、ドイツもコイツも知らないとばかり言う。」

口内で飽和した煙が、口の端からモクモクと漏れ出でる。
魔力のコントロールが疎かになる事も已む無し。
今はそういった状況なのだ。


思えば今まで文句は言われても下僕に去り行かれたことは、ただの一度とて無かった。

ヘルマンは、それは上手い交渉の仕方を心得ていたからだ。

「もう貴方の横暴には付いていけません！　出て行きます！」

私の耳によく聞こえるよう、腹の底から大声でヘルマンが宣言する。
同時に窓を開くと、パッと大空へと飛び立つのだ。

いかに冷静な私とて、思わず玄関の外へと追いかけてしまう。

すると、いつの間にかヘルマンは私の背後に降り立っていて。

「とまあ、この様なお互いに悲しい結果にもなりませんからね。
　もう少し、己の行動を見直して頂けると幸いなのです。」

こうして我々の仲は直ぐに修復されたのだ。


つまる所、ヘルマンは出て行く振りをしたことは有った。
しかし本当に飛び去り、私の元を無断で１分以上も留守にしたことは無い。

故に私には、失せた者を探す手段が分からぬのだ。

「どうした者かな。
　時間が経てば腹を空かせて戻ってくるかとも思ったが、全くそんな気配も無い。
　むしろ私の腹が音を上げ始めているぞ。
　まさかアイツめ、私を餓死させることが目的だったのか？」

ごろりごろり、仰向けに寝転べど空腹は和らがない。
かと言って、己の手で恐るべき味付けの料理を創意する気にもならない。
時計を見遣れば、時間ばかりが早足で過ぎ去っていく。

「まったく、しょうがない……。」

気は進まないが、外で何か食い者を見繕うことにしよう。

ヨシノが出て行く前に、幾らか手元に現金を作っておいたことは幸いだった。

あの手紙にはクレジットがどうのと書かれていたが、そもそも私には扱い方が分からん。
恐らくは金を引き落とす手段なのだと思うが、その方法を知らん。
何もかもの雑事をヨシノに任せて、自分の研究に意を注いできた結果である。
不躾な識者に言わせれば、応報といえる結果なのだろう。

まだ日は高いというのに、外を吹き荒ぶ風は随分と冷たい。

とはいえ、腹が減ったままでは私が先に倒れてしまう。
それにもしかすれば、腹ごなしを済ませようとするヨシノと出会う可能性もあろう。

よたよたフラフラ、億劫がる脚を励まし励まし。
喧騒止まぬ町並みの中へと、再び身を投じた。