霧22　電磁波21　熱っぽい

・嬉しい出来事に浮かれて細かいミスをやらかす
・今日のカタログの高性能なパーツ多すぎない？
　→悩んだ末ブースター・レーダー・粒子ブレードを購入
・演習反省点　機関砲に弱すぎ
・僚機変更手続きを出した

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　サリー・ハイズマンは射撃武器を多く積んだ多脚WH『ラブストラック』の乗り手であり、私の憧れのライダー、マーカス・グレイシーのパートナーとして活躍している女性だ。私より3つ年下だが、童顔と大きな瞳のせいか幼い印象を受ける。そんな彼女が新たにラモラックと契約したライダーだとは思いもよらなかった。

　ラモラック社。メインエントランスに立っていたサリーに頭を下げ、お互いに自己紹介をし軽く雑談を交わす。何故ここと契約したのかと尋ねたら、彼女はラモラックの射撃武器開発計画のアドバイザーとして誘いを受けたからだと答えた。私はこの会社に格闘武器かそれの運用に必要なパーツしか頼んでいなかったので、銃器とは無縁の会社だとばかり思っていた（スティーブンも教えてくれなかった）。

「契約ライダーという立場は同じですが、こうやって有名人とお話できるとは。恐縮です」
「そんなうやうやしくしなくてもいいって。プロフィール見たよ、7年目なら同期じゃん。もっと気楽に話そ？」
　サリーはいつの間にか自動販売機の前で2杯のコーヒーを手にしていた。柱に沿うように配置されたソファに座り、私も座るように視線で促す。
「ではお言葉に甘えて。隣失礼……それでも緊張するな、ずっとテレビで活躍を見てきた人物だし、そんな人を目の前にして気楽に喋れるわけないよ」
「その割には落ち着いてるね」
　サリーの隣に腰掛け、無意識に膝に添えていた左手をギュッと握ったのを感じながら、右手でコーヒーを受け取る。霧によって冷やされた外の空気が窓ガラス越しに伝わってきた。コーヒーの湯気と暖かさがより強く感じられる。
「折角の機会だし、今のうちに聞いておこうかな……ええと、マーカスさんは、元気？」
　サリーはそんなこと？　とこぼしながら目を丸くした。
「げ、元気だよ。連絡も毎日とってるし。マーカス好きなの？」
「ファンといえばファンだね。正確に言えばマーカスさんじゃなくって、マーカスさんの戦いが好きなんだ。いつもあの力強さに勇気付けられていたし、私が格闘機乗りになった理由も少なからずそこにある。なのに最近は……ちっとも戦ってないし、今のワイドショーのコメンテーターが馴染む姿を見る度に嫌になってくるんだ。好きだからこそどうしても昔と比」
　スラスラと出た言葉に狼狽え口を塞ぐ。恐る恐るサリーを見れば、彼女はぽかんとした表情で私を見つめていた。が、すぐに悲しそうに笑ってこう答えた。
「……わかるよ。最近のあいつ、だらけてるし」
　相方の愚痴を言われたにも関わらず、腹を立てず逆に同情したのだった。
「あたし達はね、このコンビでてっぺんを目指すって目標があったから、ここまでやってこれたんだ。なのにマーカスったら現状に満足しちゃって。向上心がないの。『てっぺんで売れっ子として日々を忙しく過ごすなら、中堅に留まって自分達のしたいことを伸び伸びとやりたい』って」
「自分のしたいこと、か……それが本当だったら、今までの積み重ねは何だったんよ、って感じ」
「けどあたしはコメンテーター業があいつのしたいことだとは思わないな～」
「本当？　だったら、あの人がもう一度サリーと一緒に、戦場を駆け回ってるのを見ることできるのかな」
　するとサリーはしばし考え込んだ後、笑って口を開いた。
「できると思うよ！　あいつは戦いから離れてはいるけど……ハイドラへの情熱は失っていない。それに、一番嬉しい顔をするのは敵機に攻撃してるときだったから。今の生活がつまんなくなったらまた戻ってくるんじゃない？　あたしから呼び掛けてみよっか、マーカスの戦いが見たい知り合いがいる、って？」
「そ、そこまでしなくてもいいよ！　これはお願いではないしただの愚痴だし……でも、そうしてくれるなら、嬉しいに越したことはないね」
　恥ずかしさと共に、心の底から震えるような喜びが湧いてきたのを実感した。だがすぐに悲しみも断崖絶壁に打ち寄せる荒波のようにやってきた。たかが一ファンの意見を、本人に一番近い場所にいる人物に正直にぶつけてしまったのだから。

　帰路に着くと妙に体が重くなり、頭もふわふわし始めた。部屋に戻り熱を計ると微熱だったのですぐベッドに入ったが、朝を迎えても全然治らなかった。それ故に翌日の依頼は達成までかなり時間がかかってしまったし、演習も芳しくない結果に終わった。完全に浮かれすぎたな。