この赤い瞳が、好きではなかった。

「ヨシノ！　ヨーシーノー！」
「どうしたンだい、相変わらず喧しいね」
「喧しくないもん！　で、はいこれっ！　プレゼント！」
「……何だい、カチューシャ？　アタシが着けて似合うモンかね」
「似合うよー、ヨシノも女の子だもん。色だってねえ、ヨシノの目の色とおんなじやつにしたから、きっと似合うよ！　それにねえ、」

　少女は笑う、笑う。
　同じ色、赤色のカチューシャを手に取って、笑う。

「私とお揃いだよ！」

　この赤い瞳が、好きになった。



　***



　先日、ミチルから届いたメールの内容は簡素なもので（普段なら仕事のメールだと言うのに細々と近況報告やらこちらの生活の心配やらをして来る）、ミチルはヨシノとの契約を破棄し、情報提供を打ち切るとのことだった。
　元より、ミチルはこの情報提供には乗り気ではなかった。とは言え、情報屋として一方的に契約を破棄するのはどうかと思うが、成る程、いよいよ愛想を尽かされたのかもしれない。
　それならそれでもいい、とヨシノは思った。

「……大体、調べ尽くしたかね」

　己のウォーハイドラである『石竜子・弐式』を運び込み、今後の拠点とするためにフォスフォラスには内密に借り上げたガレージの中で、ヨシノは『タランチュラ』についての情報を調べていた。
　と言っても、それは直ぐに出てきた。最早ミチルの手を借りる必要も無く、ヨシノが調べるだけでも必要な情報は得られたのである。ミチルが契約を破棄したのも、このことを見越していたのかもしれない。
　しかし、それは『タランチュラ』が派手に動いている証拠でもあった。
　モニターに映し出されたウォーハイドラの画像と大量の文字の羅列を見て、ヨシノは嘆息した。

　――蜘蛛型の多脚ウォーハイドラ、『タランチュラ』。
　8本の脚を持ち、射撃武器を中心に搭載した機体。パーツはおおよそ非正規のものと分かるそれである。
　機体の打たれ強さを盾に取り、己の機体の損傷を厭わない。射撃中心に組まれた機体とは思えない程の至近距離から、高威力の電子射撃で攻める傾向がある。ハイリスクハイリターンな戦い方。
　また、敵味方問わず、「場の殲滅」に重点を置いているようで、暴れて戦場を荒らし回るような真似が多く、危険視されている。
　戦地を転々としていて、神出鬼没。
　機体の非合法性も鑑みて、どこか特定の組織に属しているようには見えない。
　搭乗者の名前は――、

「……この前はここ、先週はこの戦場。おおよそ3日おきに動いている。仕事は破壊工作を好む。活動範囲は……」

　今までのデータと、傭兵として、またハイドラライダーとして蓄積された己の経験と勘を総動員させて、ヨシノは『タランチュラ』の次の出現地点を予測する。
　それに、共に過ごした歳月は長かった。
　性格は分かり切っている。

　トントンとデスクを叩く音。
　規則正しい音。
　音が止む。

「――次はここか」

　ヨシノには確信がある。
　モニターに映った瞳は、変わらず赤かった。