ミストエンジンと麻酔を混入した酸素吸入器が発する音以外、何も鳴らない。
平時のそれとは別の薬物の助けを借りて、数日置きに睡眠を取る時、彼はこうならざるを得ない。
寝返りを必要としない硬いベッドの上で、神経の働きを弱め、機械的な、浅い睡眠を得る。
行き場を失った霊障が漏れ出すままガレージに充満する。


踏み込んだ者を、雲霞のような視線が射すくめ、文字通り飛び跳ねて起き上がった。





第８日目

Eno.152 insanelyの一日

霧濃度194％
電磁波28％

日記

ミストを浴び終えジーンズと半袖のシャツに袖を通し、清潔なタオルで髪を雑に乾かしていると、シャッターの脇に備えられた防火扉が開かれ女が一人入ってくる。
馬鹿なことをと心中毒づき、いや馬鹿は俺かと振り返る。直接来るなとは一言も言わなかった。手篭めにされたり解剖されたりといったことは想像しなかったのだろうか？
抽斗から清潔なマグを取り出し、カワサキ時代から愛用しているティーサーバーから鎮静作用の期待できるハーブティーを注ぐ。湯気を見やりながら自分で飲もうとしていたことに気づき、来客相手にそれはないだろうと変な笑いがこみ上げてくる。
カウンターに腰掛けてくれるよう伝え、反応を待たずに向かって歩き出す。途中先程流した血溜まりを踏みつける。後で掃除する。
女を見やると、不審と憤りかあるいは呆れか、怒気のようなものが感じられる。片手に俺の作った電子回路を掴んでいる。このマグ共々投げつけられるかもしれない。問題ない。薬の効いてるうちは避けられる。
アデライド・フォーレ。登録情報が定かならば22歳。こちらの意図を問いただしている。危機感薄し。手持ちの兵装は不明。
まずは問い質された内容への回答から開始しよう。