入り組んだ遺跡の中を進んでいくと一番奥まった部屋の入り口でリードリットが警戒の声を上げ、共に歩いていたエールステゥは立ち止まる。何事か問題が起きたのか、と視線を向けるがどうやらそうではないらしい。


「何事？」

「ここが終わりの部屋だ。生き物の気配はなし。駆動物の気配もなし。……行くのか？」

「覗いてみないことには何も判断がつかないからね。それに依頼者の言葉が正しいならば……」


　無造作に前に出た。半壊した薄い扉の向こうを覗きこむ。それは円形の部屋だった。それなりに広く、中央に建造物がある意外は何もない部屋だ。今まで無数に散乱していた破壊されたパーツ類もこの辺りには見当たらない。
　部屋の中央にあるのは、円形の巨大なリングだった。何も知らないものが見れば、ちょっとした祭礼のためのモニュメントとでも思いそうな古びた曰くありそげな代物である。しかし、依頼主たちはこれを『門』と呼んでいた。


「これが……異世界に繋がる遺跡の心臓部？」

「そう、『星界ゲート』だよ。リディ君」


　未知の遺物に圧倒されるように見上げている後輩に、頷いて返す。依頼主の言葉が正しいならば、これは古代文明が他の世界と接続するために使っていた装置のひとつであることは間違いない。
　実際、リングの外周には金属製の外殻がぐるりと取り巻いており、その所々にまるで太い血管が表に出てきているかのような配線や配管がアチコチなされている。巨大な、石と金属からなるこの『門』が今回のすべての原因だろうとエールステゥは見ていた。


「周囲の大気の水分量も特に以上はない。温度的にも問題なし。……霧が発生する、というには無理がある感じだね。しかも当時はそれが噴出すようにして遺跡の外にまで及んでいたという話だし」

「霧を発生させるような機械は見かけた覚えもないがね」


　壊れちまってたならわかんねぇが、と肩を竦めるリードリットを横目に、女はもう一度『門』を見上げる。


「もしかしたら一方通行の門なのかもしれないね……何にせよ、調査をしないとわからないとは思うから。リディくん、手伝ってもらうよ？」

「へいへい……」


　ため息混じりに答える後輩に微笑みかけながら、女は瞳を伏せる。
　ここが最後ということはここで何も見つけられないならばもう手はないということだ。それだけはさすがに認める訳にはいかない。予測がただしいならば、きっと向こう側には大切なj分たちの仲間がいるはずなのだから。


「諦めないから」


　向こうにいるはずの仲間たちも、諦めないでいてほしい。
　切実にそんな気持ちを胸に、探索が始まるのだった。