思うように加速の伸びが出ない愛機を、それでもいつも以上に酷使して派手に振り回し、水面下で実力行使による利権争いが多発中の開発区域における調査任務で敵を半ば振り切るように立ち回った結果として――僚機もまたその動きには着いて来れず囮同然の位置付けで撃破され、単独でデータを回収しての帰還となったエアロ。
　帰路の輸送機の中で戦闘データを解析しながら、ヘルメットの下で他には見えぬその表情を不満げに歪める。

　「Weight-Over？　カタログスペックをほんの少しはみ出していたか……。
　　シミュレーターでは動きに支障がなかったはずだが、誤差を反映し切れていなかったか。
　　もう少し上等なソフトウェアをそろそろ仕入れんといかんな」

　ウォーハイドラはその動力源・ミストエンジンの未知数な潜在力ゆえか、1～2％程度の設計ずれはフレーム構成の許容誤差として吸収してくれる。
　かつて別の場所ではスペック限界搭載量を1ポンドでも超過すると歩くことすらままならない程に性能低下するようなピーキーな人型兵器を扱っていたこともあり、性能値と実際値のずれには敏感なつもりでいた――積載量の限られる軽量級構成ならば、なおさらである。

　「まぁ、その代わり――
　　武器の具合については、おおむね上々だ。
　　もう少し出力を閥値近くまで引き上げても、戦闘限界時間には影響ないだろう」

　それまで不満交じりで流していたデータ解析から一変。
　近接・格闘兵器に関する戦闘レポートとそのフィードバックについて、まるで別人のような勢いで詳細にデータを追い、観測されたパラメータと照らし合わせては一喜一憂の呟きを漏らす。正直お近づきになりたくないレベル。


　「……あとは――せめてこの仕事の間に、一度くらいは再現したいものだ。
　　“斬月”の、太刀筋を――」