ようやくだ、残水量も燃料も何も気にせずにシャワーが浴びられる。ギルドの件ではひどく怒られるだろうけど、それでも今晩は何も考えずに眠れるだろう。本当に色々あった。
とりあえず直すもんも直せないからさ、うちのドックまで来てくれるかな。みんなにも紹介したいし、とディレイゾに言うと、彼はそれを固辞した。なんとなくわかっていた反応ではある。
野盗紛いのやつらだって出てこないとは限らないし、そもそも離れるとエラーが出るのはそちらの機体ではなかったか。
そんな風に説得するのだけど、なかなか首を縦に降らない。
そうこうする内に街の方から土煙を蹴立てやってくる機影が見えた。
ワタリケイション。
バッタのようなやけに間延びしたフォルム。
広域長距離貨物輸送・及び軽戦闘を主目的に開発された。アンカー最大四門射出。基本武装は他にバルカン、腹に抱えたクラスター爆弾。ディーゼルエンジンとミストエンジンのハイブリッドで、剛靭な脚部での安定高速移動、また翅に似た機関で短時間だが飛翔することも可能。瞬間的な速度なら軍部最新鋭の戦闘機にも比肩する。
下品なブーストのかけ方からして、乗っているのは調子乗りのハード・バードソフトだろうと思われた。
それなりに懐かしい顔ではある。

『サゴ姉お久しぶりッスー。相変わらずヤニ臭えッスかー？』
「うるせえナバホの犬。相変わらず口悪いな」
『サゴ姉ほどじゃないッスー。そっちの機体が例の人ッス？』
「そう、紹介するよ、ディレイゾ。こいつハードって言って、うちの下っ端エンジニア。ハード、私らくらいならワタリケイションで運べるよね？」
『そちらさんがイリジウムとかで出来てない限り大丈夫スー。つーかうわすげえ……どこのメーカーですかこの機体……あ、』

震動。


かろうじて確認できたのは、蒼く暗い霧と、夜闇を裂く雷光のようなトモサリの腕。

殴られたのだろう、機動系のインジケータがいっぺんに真っ赤になった。激しく頭をフロントクリアに打ち付け意識が揺れる。

『てめえコラァ！！！！！！』

ワタリケイションからアンカーが射出されインヴェイションに絡みつく。

『サゴ姉逃げますよ……ってかテメエうちの姫に何してくれてんだコラア！！！！！！！！！次殺すぞ絶対殺すからなテメエ！！！！！！！！！』

口調と乖離した状況判断で、脱兎の如く発進するハードと私。いい読みだよな、傭兵でもやりゃあいいのに、もっともそんな事言い出したらうちの奴らみんなそうだよな。
脳はうまく出来ている。関係ないことを考えてダメージを和らげようとしている。

砂塵の向こうに遠のくトモサリ。虚脱したように突っ立っているようにも、途方にくれているようにも。

絶叫に似た、エンジン音。