抱え上げた体は随分と軽かった。視覚も触覚も聴覚も、もう彼女からは何も伝わってこない。
青年のイエローは、ツインテールのイエロー（だったもの）をガレージの寝台に寝かせた。隣には既に、数日前に機能停止させたロングヘアーのイエローが眠っている。

「一人になっちまったな」

隣に立ったリビーが呟く。
しかしながら、イエローは首を振った。

「おれは元から一人だよ、リビー」
「つったって、体なくしちゃ平気じゃいられねーだろ」
「……そうだな、その通りだ」

ロングヘアーのイエローを停止させた直後、こちらに来て初めて撃墜された。
整備ミス、火力不足、様々な要因が考えられたが、端末の一つを失ったこと、そして一度目とは比べ物にならないほどの速さで更にもう一つの端末まで乗っ取られたことも、無関係ではないだろう。

「こっちのお前も昨日ガレージ出た時までは普通だったのに、一体どうなってんだ？　速すぎるだろ」
「慣れたんだと思う」
「慣れた？」
「一体目を乗っ取った時にコツを掴んだらしい。この二体の端末はそれぞれ左右の制御補助を担当していたが、基本構造はほとんど同じだ。一方を掌握できれば、もう一方も手中に入ったようなものだったろう」

それにしても、イエローの予測を遥かに上回るペースではあった訳だが。

「お前は、そっちの体はどうなんだ？」
「これは機体の制御全般に関わっているからもう少し複雑だ。ここまで早く掌握はされないだろうが……しかし、時間の問題だろうな」
「その体まで取られたら、どうなる？」

リビーの問いは、一人目を機能停止したときからずっと、イエロー自身も考え続けていたことだった。
そして既に、イエローはある程度の結論を得ている。それを話すためにはあの事も明かさなければならないが、最早伏せている意味もないと彼は判断した。

「実のところ、リビー、おれはあの機体のパイロットじゃない」
「……は？　いや、お前いつも操縦してたろ？」
「それは確かだが正確ではない。おれは」

イエローは、ガレージの隅にあるウォーハイドラに目を移す。本来の自分自身に。

「おれはウォーハイドラ『バーントイエロー』を制御しているAIだ。おれの本体はウォーハイドラの中に搭載されている」

リビーが息を飲む気配がしたが、イエローはそのまま続けた。

「パイロットは操縦棺に封印されていて、降りることも喋ることもできない状態にある。だからAIのおれがそれを代行していた。三つの端末は周囲との接触をしやすいように用意されたものだ。機体のままでは街中には行けないし」
「それじゃ、パイロットは」

リビーが機体の方に視線を向ける。
イエローは頷いた。

「ああ、今も乗ったままだ」
「……じゃあ、お前が止まっちまったらどうするんだ」
「これはおれの推測だが、恐らく、おれと三つの端末の存在そのものがパイロットをあの機体に封印している。彼は恐らく、外に出たくておれに攻撃を仕掛けている」

外からの攻撃が見られない以上、内側からの浸食だとイエローは結論した。
現に今だって、蠅の羽音のような囁きが、ずっとどこかで聞こえている。
「返せ」と。

「おれが止まったその時には、彼が降りてくるかもしれない」

自分にかけられたプロテクトも随分緩んでしまったものだとイエローは思う。きっと端末が鍵になっていたのだ。三つあるうちの二つを乗っ取られたせいで、プロテクトもまともに機能しなくなってしまったらしい。

パイロットが「彼」だと、イエローは既に思い出していた。