「帰れるかもしれない、って……お前……」


　今までこの遺跡には何度も来ているし、この動かない『門』だってアイツは詳細に調べていたはずだ。それでも帰還の為の方法がわかってなかった筈なのに、今になって唐突にそれが判るってのもさすがに話がうますぎる気がするんだが。怪訝げな視線を送る俺にアイツは視線を少しだけ寄越すと、『門』を見上げて口を開く。


「霧だ、ガル」

「霧」

「今無くて、あの時あったものを思い出せばそれしかない」


　確かに、あの時の俺達はそれこそほんの少し先の視界すら見えなくなるほどの濃密な霧だったのを思い出す。この遺跡内は勿論だがあっちのリューン側の遺跡ですら霧が酷くて、遺跡の周囲まで霞んでいたっけ。
　しかし霧なんざ世の中よくある気象現象だし、こっちの世界なんざ霧がしょっちゅう酷い具合で珍しいものとも思えないんだが。一体ソコになんのポイントがあるっていうのか、と首を傾げる俺に呆れたような眼差しが返される。


「お前は馬鹿だな……だから脳筋と言われるんだ」

「うっせぇ。さっさと結論言え結論を。まどろっこしいのは嫌ぇなんだよ」


　俺の物言いに盛大なため息を吐いたが、ファストは言葉をそれでも続けた。


「私達の世界の霧と、この世界の霧は違うのを思い出すんだ。この世界において『霧』とはどういうものだ？」

「ぁー？　えっと……確か何かあの俺の乗ってるアイツとかの動力源なんだろ？　どういうわけか」

「そうだ。この世界では、兵器は『霧』が全てのエネルギー源となる。我々の世界の遺跡が『雷』を原動力にするようにね」


　そして、と一拍置けばアイツは『門』を指さした。


「……それが、他の機械にも適用されるとしたら？」

「！」

「私は今まで、霧を原動力にするのは兵器群だけだと思っていた。それ故のミストエンジンの存在だろう……とね。しかしもしも全ての機械が霧を原動力とするなら、この遺跡のどこかにもミストエンジンなり何なりがある可能性が高い」

「それを見つけ出せば……」

「嗚呼……そして、起動できれば『門』も動くかもしれない」


　パーツ探しにきて、まさかの発見だ。
　さてどうする？　と俺達は二人で顔を見合わせた。


「とりあえずパーツは探そう。今の話は可能性の話でしかないからね。もしも見つからなかった場合、結局は暫くまたウォーハイドラ乗りに戻らないといけない。……まあ傭兵契約の期間はそろそろ切れそうだが」

「だな。んじゃ、とりあえず探して回ろうぜ。パーツ。終わり次第この遺跡自体起動させるエンジンを見つけに出発だな」

「嗚呼」


　とはいえあまり時間はない。
　少しずつ冷え込んできている空気と自分の体内時計を照らし合わせるならば、そろそろ夕暮れが近いはずだ。さすがに夜遅くまでこの遺跡には居られない。灯りは多少あるとはいえ、それでも夜中の遺跡探索は危険極まりないのだから。

　何にせよ目標が定まれば後は動くだけだ。
　俺とファストは再度確認し合えば、早速行動を開始するのだった。