「本当にいいの、これで。」

　このドックにキリウヅキは少し小柄だ。見上げた視界は壁と積まれた道具、古びた映画ポスターに埋まり、ほっそりとした機体をともすると見失いそうな気になってくる。
　機首先端に装備した剣には合皮のカバーがかけられている。ここに装備する武器を換えるたび、いつかの演習相手の言葉を思い出す。武器を減らす必要が出てきたら、まず外すべきはここだろう、確かに。しかし今はそうしていない。できるならこの先も。
　操縦棺のやや後ろ、広げると体長とほぼ同じ長さになる両翼は、側面に折り畳まれている。ウォーハイドラの心臓部というと通常エンジンを指し、それはもう少し後ろ、腹のあたりにある。しかし、この機体に限っては、翼こそが心臓なのだと思う。
　装甲は薄い、とても薄い。無数のアルミ片が描く鱗模様は美しい。一枚一枚が高感度のセンサーとして、猫の髭のように微細な感覚を伝えてくる。しかし大型機関砲や電子ブレードの飛び交う戦場では裸に等しい。
　整備士が、これでいいのか、と問うたのは、そのさらに後部のことだ。
　筒型、椀型、大型、小型、増設の跡も新しい、４基ものブースター。

「落ちるかも。」

　率直に答えると、整備士は苦々しい顔を作った。
　中年と呼ぶにはまだ少し若い彼女が、あゆりを死にたがりだと思っていることはわかっていた。補助装甲を外し、盾がわりになるパーツも外し、キリウヅキがぎりぎりの薄さまで研いだ刃物みたいになってゆくたび、彼女は言うのだ。本当にいいの。

「緊急時のシステムは完璧なんでしょ？」

「そもそも落ちるの前提で飛ぶほうが間違ってる。」

「前提じゃない。落ちるつもりで飛んだことなんて一回も無いです。わたしは確かめたいだけです。」

　整備士は溜息をつく。

「借り物の機体で無茶ばっかしてさ、壊したら出ないんじゃない。報酬。もうあと少しなんだから、流しちゃえば。」

　彼女は本当にあゆりを心配してくれているし、それでもオーダー通りきっちり仕上げてくれる。思えば初めて撃墜されたときからの付き合いだった。

「……あのね、カリガネさん。わたしね、考えてることがあるの……」