覚えのない音声ファイルを見つけたのは、危なげなく終わった戦闘の後、様子見がてら愛機を弄っていた時だった。
　発信元は不明。しかも、壊れている。不審と興味の半々でファイルを端末に移し、部屋へと持ち帰ってみたが、意外というべきか何のロックもダミーも使われていなかったそれは、少しばかり手を加えてやれば。思ったよりあっさりと再生できてしまった。
　ザ、ザ、とお決まりのようなノイズに乗って、聞こえてくるのは覚えのない声。任務終了間際のお遊びにしては、随分と良く出来たデートのお誘いだ。まあ、生憎と外せない先約があるのだが。

「新たなステージ、ねェ…」

　全く興を惹かれないわけではない。かといって、こんな眉唾ものの話を鵜呑みできるほど純粋でもなかった。悪戯だろうか。だとしても、誰が、こうも手の込んだ事を？　浮かぶ怪訝に答える声はなく、録音が途絶えた後には、耳障りなノイズが続くばかりだ。
　この不可解な通信は恐らく、他の傭兵たちにもいっているだろう。なら、もう少し情報を集めてみるべきなのかもしれない。しかし、この疑問を一から解き明かすには、残された時間がどう考えても足りない気がした。

「……無事に連れて帰れりゃ、それでいいんだけどなァ」

　胸騒ぎがする、とは、多分こういう事を言うんだろう。弄っていた端末を投げ出してベッドに沈み込むと、慣れない思索に唸るような溜息が漏れた。