この光には見覚えがある。
なにせこの眼で最期に見た光なのだから。


凍り付く意識が不意に戻ってくる。
何もかもが稀薄に感じながらも、その光を見て私達はそう思った。
それはつまり、遂にあの傭兵共に見つかってしまい、それで【実験】しているということだ。
そして実験中にも関わらず私達の意識が回復したのは、他でもない。
我々の媒体となっているオリハソツカとこの機体が限界を迎えているからだと、全てから感じる。

思えば、あの日我々実験部隊〈デイレイゾ〉は、傭兵どものあまりにも圧倒的な物量により全滅した。
だが絶命する寸前、辛うじて落ち延びたこの機体、フォボスシリーズ実験機〈トモサリ〉に
残留思念のような形で宿ることができた。
そんな奇跡をなし得た原因は、実験機体に搭載された新型エンジン〈オリハソツカ〉と、それに既に宿っていた博士の類い稀なる狂気のお陰であった。
新型エンジンの有用性を証明するという博士の悲願に、我々は滑り込むことができたのだ。


傭兵どもの攻撃は益々激しくなっているようだ。
果敢に接近してきた敵ハイドラ数機は、例によってエンジンを潰したが
相手は即座に火力に物を言わせた射撃戦に切り替えている。
一方こちらはもう何もかもが限界だった。
とっくに狂気のまま振り回すような操縦に耐えられなくなっている。
機体が、オリハソツカが、朽ちて、いく。
我々は。
ここで。



オリハソツカの濃度が更に薄くなった、その時だった。
彼らの個を保っていたオリハソツカが解け、混ざり合っていく。
この現象の動力源となっていた博士の狂気が、デイレイゾの5人にも混ざりあっていった。
狂気が均一に薄くなったことで、博士は一時的に正気を取り戻した。
そしてデイレイゾの5人は、改めて博士の狂気を目の当たりにした。

博士は無念だった。
自分が人生を賭して求めたオリハソツカが霧散してしまうことが。
だが博士は感謝していた。
ここまで実験を続けることができ、彼らのお陰もあって、ここまで有用性を示し続けることができたのだから。

デイレイゾは全員最敬礼をしていた。
ここまでのものを創り上げ、それに投じた博士を。
その有用性を証明するという栄誉ある実験に携わることができた実験部隊としての誇りを。


その想いが、薄れ行くオリハソツカと狂気の中で、形を成した。
流れ出していた霧は止まり、逆に機体とエンジンに吸い込まれていき、満ちる。
それは博士の悲願の下、実験部隊が最期の実験へと望むために、今一度起きた奇跡だった。

『『『『『『実験開始』』』』』』


そこから反撃が始まった。
猛火を潜り抜けながら、その性能を十二分に発揮するその姿は
確かに傭兵どもには悪魔に見えたに違いない。

＜操動＞により、霧を渡る鳥のように戦場を翔け巡る。
白兵戦では＜応闘＞がその技量を持って一撃でエンジンを貫いた。
ミサイルや榴弾が飛んでこれば＜測猟＞が正確に撃ち落とした。
それらを実現させるために＜傲造＞と＜博士＞が機体とエンジンを全力で誤魔化していた。
そして＜頭領＞によって束ねられた、6人による機体運用は
その意志が遅延減衰することなく機体の隅々まで行き渡っていた。

オリハソツカの有用性を示すというこの壮大な実験は
彼らによって確実に成功へと近づいた。



だが所詮は、夢や幻。
霧は晴れ、それは終わる。
あの最期の日は、彼らを逃しはしない。










それだというのに。
彼女が。