「脳に響くだろう。この銘柄は私も吸っていたんだ。がつんと来るはずだ。
　　　もう何も言わずとも伝わっているだろう？ そういうものだからな。
　　　これはそういうものだし、我々もそういうものだ。
　　　キッズたちは手をつなぎ踊っているよ。それをまだ陽も落ちていないのに犬どもが邪魔するんだ。
　　　さようならには早過ぎる。
　　　君も踊りに来てはどうかね、ジンメル・ミスティア・サーゴ。


　　　君の運転はお世辞にも上手とは言い難かったが……

　　　まだ新米の頃、ヘリコの後部座席で小銃をいじっていた感覚を思い出した。
　　　不思議と安らぐものだな、車輪というのは。

　　　次があるならば、モーターサイクルにでも乗ってみよう。タンデムだ。
　　　冗談だよ。

　　　机奪穿貫は触媒に過ぎない。私もキッズたちと溶け合うことにしよう。

　　　それでは。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　」




煙草には精神感応霧が染み込ませてあったのだ。それでなにもかも分かってしまった。
突貫で換装を終えたインヴェーションを走らせる、走らせる。ドックのシャッターを跳ね飛ばしてしまって社長の怒鳴り声が耳に入る。
ごめんね。
レーダーには6つの光点。遠くには夥しい蟻のようなギルドどもの。

「サゴ姉、聞こえるー？」
「聞こえるよ、キュヘレちゃん。何？」
「えっとね、チャンスは数十秒だって。だから合図が欲しいって父さんが言ってる」
「オーケー」

見てろよ蟻どもよ。眼にもの見せてやっからよ。

戦場の只中に崩れ落ちている黒い機体、始めてみたのと印象は変わらない。
そしてそれを取り囲むおもちゃ箱をひっくり返したようなギルドの機体ども。
ナビには100を超える信号。「引き返せ」「安全は保証しない」「当作戦は軍主導のものだ」etc。
知ってるっちゅーの。

「キュヘレちゃん、今！！」
「あいさー！」

砂塵を蹴立てて有機設計のみんなの機体から光の帯が伸びて、魔法陣のような図形を空に描く。
GONEWIZMYST。うちの切り札だ。
一定時間ではあるけれど、領域の霧を無効化する。つまり、ミストエンジンで動いている機体は一切動けなくなる。

つまりは。

「ディレイゾ！！」
キャノピを開けて叫ぶ。
わずかにカメラアイをこちらに向けた気がした。

ああ、風の匂いがする。
ああ、なんて気持ちいいんだろう。

私は大きく息を吸ってーーーー。