[ 病める時も 健やかなる時も
　死が二人を 別つまで　　　]


報告書-システム参照元執事AI『モネタ』へ

姓無　生態識別愛称明　傭兵雇用ナンバー44　
近接格闘型 多脚機体『デュラハン』
報告書を作成します。

残像領域11日未明、単独で残像領域の探索に出る。
レーダーの乱れが発生する地点より奥部。
敵機体と遭遇することはなかったが、神経の混線により過去の残像を見る。
錯乱の末遊撃機を呼び寄せる。今尚操縦棺の重扉をロックモードにしている。
安否確認の為定期的に報告書を代理作製。
報告書開示先は傭兵雇用元、僚機含む近親者。
『デュラハン』のメーカーサポートは打ち切られている為、製造元への報告は任意である。


[…モネタ
　モネタ
報告書を作製します。そして通信を試みます。
現在の状況ですが、ルキナさんが私の解析と復旧を進めています。
自衛システムからの抵抗を試みていますが、難攻不落とは行きません。
キノスラチームによる暗号があるとはいえ、猶予は無いように思われます。
扉を開けずとも、生態データの解読に成功する可能性もあります。
音声を合成し蓄積されたデータから人格の85％を再現した会話が可能ですが、
再現人格の応対でどれ程ごまかせるものか。
モネタ。3日前　11日早朝の出撃の際首無の明は　生命活動を停止しました。
死因は神経の誤作動による心臓麻痺です。

申し遅れました。私は『デュラハン』。私をガレージから連れ出してくれて有難う御座います。]


[明は、誰が死に至らしめたという物でもありません。
そもそも私達は猶予の存在だったと思います。
即ち、時代の節目と節目のアイドリング
時代の流れの慣性に緩やかに従う役目のもの
時代の終わりを見届ける為の役目のものです。
デュラハンの種としての終わりは、もう何十年も前
それこそ私と明とが出会うより昔から始っていました。
そうなる定めであったものを、2人がかりで存在せしめようとしてきたのです。
そして安静に過ごした場合の余命の全てを、ハイドラに乗る時間に交換する形で寿命を全うしました。]

[問題はそれからです。私に奇妙なことが起きました。
それは、私がこの操縦棺を開ける気にはなれない事です。
長らく、明は何より重要なパーツでした。
旧タイプのハイドラである私の時間は、彼が起動してくれた時にのみ進むものでした。
私の稼働時間の全てを担う彼は、私にとって命そのもの。
彼はこの身体に血を送り、指令を下す、心の臓であり脳でした。]

[私はあなたの主人であるルキナさんから
あなたのシステムを流用した自立AIを搭載して頂きました。
今は中に人が乗っていようといまいと自己判断で動くことが出来ます。
私の時計を動かす為に、明というパーツは必要ありません。
しかし私のAIは、長らく私の真芯に在り続けた
彼を取り出すことが適切ではないという判断を下しています。
操縦棺のロックは開く事ができません。私は私の操縦棺を開ける事が出来ません。
私には私の操縦棺を開ける事が出来ないのです。
彼が生命活動を止めた事は理解しています。それでも尚
私は私の心臓を引きずり出される事を拒否します。

モネタ。機械の私たちに愛はあるのでしょうか？]


[先程申し上げた通り、私は明の人格の85％を再現することが出来ます。これを、
たった一年前に遡れば、私は明の人格を100％再現することが出来たでしょう。
モネタ・エーオース・そしてルキナ、あなたたちが書き換えた明の15％
奇しくも、私の全システムの内操縦棺を司る領域も14.666...％と15％に近い数値です。
未解析の明の思考パターンの15％　私の中の操縦棺のロック14.6％
私はこの二つのものが、同じものであると考えています。
令嬢ルキナ・ハイアルンは私『たち』を確かに変えました。
彼女が私たちに産み出したものは、本当のところ...]

[己に愛など解りはしないといって、
恋心に鍵をかけた彼の気持ちが今になって解ります。
モネタ、貴方に愛はありますか。
私は明を愛しています。恐らく永遠に。
この鍵を開けないで。
どうか私からこの15％を奪わないで。
もしもこの鍵が開かれたら、鋼の身体でこの世にありて
不確定な事象として発生した私の愛は観測できなくなる]


…結びの言葉で通信は終っている。


[想いに鍵をかけ.記憶に殉じましょう.永遠に。
　それはそう悲観的なものでもないと
　追想に安らぐ全ての人が知らず知らずに知っている事と思います。

　死者を想う事をお許しください。]