ENo.0126　コルボ

「また、ここに来ることになるとはなぁ」

荒れ果てた野でただ一人。
誰にともなく口にする。
荷物は相変わらず少ない。
以前は、何かと理由をつけてはここに遊びに来ていた。
遊びと言っても何をしていたわけではない。
ただ、悪態をつき合って　なんとはなしにダラダラと過ごしていただけだ。

「生き急ぎ過ぎなんだよ、馬鹿野郎。
　なんでお前の生徒を俺が面倒見てんだよ、石頭が」

口から出る悪態は、何時であっても変わらない。
当人がここに居たのなら。
『お前が自由に生きすぎなんだ』とか『優秀な生徒だろう？』とか返事があったのかもしれない。
しかし、返事を返してくるのは風だけだ。
構わない　とばかりに一人で喋り続ける。

「そうそう、生徒で思い出した。
　お前の生徒は憎たらしいくらい優秀だな、チビの助けもなしで俺の卒業試験にパスしやがったよ。
　今じゃ立派にパイロット様だ。
　……誰かに似て、頭は硬いが……ありゃあ、もう数年もすりゃイイ女になるぜ」
「イイ女といやぁ、アニーもか。
　まぁ……あの後に色々とあったが、あいつは無事に帰ったよ。
　マヤは、今頃お前と逢ってるのかね？
　もし逢ってたらそのうち俺らも行くから歓迎の用意してろって伝えておいてくれよ。
　その時は羨ましくて悔しがるくらい土産話してやるからさ」
「ああ、そうだ。
　お前……今度あったら奢るって言ったくせにそれを忘れてやがったな？
　俺はしつこいからな、利子つけて払ってもらうから覚悟しとけよこの野郎」

他愛ないことを喋り続けて、少ない荷物から酒瓶を取り出す。
そのまま、墓標とも言えない戦車の残骸に振りかけて。

「いい酒だろ？
　俺のとっておきなんだぜ？　今は半分だけだけどな。
　ケチってんじゃねえよ。……きっちりあのジャンキー女を神様とやらのところに送り届けたら、続きをやろうぜ」



炎のような夕日に照らされ、顔に影が落ちている。
男の表情を窺い知ることはできないが……蜘蛛のように伸びた影が、まるで鴉のように羽ばたいた。

ウォーハイドラ乗りでもある夜鴉達の集い。
主な本拠地は　砲弾の上に乗っている鴉　が目印の酒場。
情報交換や相互協力をメインにした緩い集いである。