ENo.0070　ユリア・クールハート

『ＴＵＲＮ０７：過去は赤い河のほとり』

　人を殺した事がある。
　ある時は銃を手に。ある時は巨神機（アトラス）越しに。
　肉を断つ感触をその身に覚えぬまま、幾度も、幾度も命を奪った。それが当たり前だった。そうしなければ生きられない世界だった。

『そうやって言い訳なんざして、この世界でもまた、殺すのかよォ？』

　一面の暗闇の中で、聴き覚えのある声が嘲笑う。

『殺して、殺して、殺しまくって。それがてめぇの生き様だよなァ？』

　違う。そう否定しても、声が止まる事は無い。

『所詮てめぇは、俺と同じだ。同じ穴の狢だ。殺す事でしか、自分を証明できねェんだよ』

　違う。私はお前とは違う。

『違わねェよ！　所詮お前も人殺しだろうがよ！』

　耳を塞いでも、哄笑は消えない。
　気づけば手の中に生まれた銃を、反射的に声の方向に向けて、引鉄を引く。

　銃声、一発。

　黒い世界に、赤い花が咲いた。



『そうやって、何度もオレを殺すんだろ？　冷徹な心（クールハート）の人殺しさんはよォ？』



『――ア、ユリア？』
「――ッ！！」

　飛び跳ねるように身を起こして覚醒する。そこは黒の世界ではなく、一月以上を過ごして、そろそろ身に慣れた『トリグラフ』の操縦棺の中。

『ユリア、大丈夫？　システムチェック中に寝落ちたから、疲れてるのかなって思って、しばらく起こさずにいたんだけど、すごいうなされてたから、思わず』
「……あ、ああ、大丈夫だ。起こしてくれてありがとう」
「……………」
『ユリア？』
「エルシス、お前は、私が人を殺した事を知っているよな」
『なに、どうしたの、急に』
「元の世界でも、この残像領域でも、私は生き延びる為に、立ちはだかる相手を殺した。そんな女に付き合っていて、嫌にはならないのか」
『ならないよ』

　迷いの無い即答に、思わず言葉を失う。もっと躊躇うかと思っていたのに。

『僕は知ってる。君はその時に最善と思える行動を取っただけ。君に戦いを任せて、直接手を下す事を一切しない僕が、君のしている事を断罪する権利なんか無い』
「……エルシス」
『だから、決めたんだ』
『君がする事に君が罪悪感をおぼえるなら、その半分を僕が請け負うって。君が罪だと思う事は、僕の罪だ。君が迷うなら、僕も一緒に迷う。君が泣いたら、僕も一緒に泣く』
『だって、僕は君の相方なんだから。好きな人と、全部を分かち合いたいと思うのは、当然の事でしょう？』
「……はっ、はは……っ」
『ユリア？』
「お前は本当に、私の考えつかない方向へ、私を引っ張っていくな」
「目から汗が……出るじゃないか……」
『泣いてるユリアも可愛いよ』
「……おべっかなんて使わなくていい」
『おべっかじゃないよ。戦う姿も、笑う姿も、泣く姿も、ユリアは全部輝いてる。僕はそんなユリアが好きだから、一緒にいるんだ』
「こんな時に惚気なくていいだろうが」
「……馬鹿」

　どこかで見ている奴がいたら、「リア充爆発しろ」という呪いの言葉を吐くだろう。

　だが、今は。

　彼の言葉が嬉しくて、赤い過去に追われる心を、癒してくれる気がした。

To be continued...

Reinclaft-Millia Service

数年前にできた、残像領域の片隅の整備屋。
相場よりほんの少し高い値段で、ウォーハイドラのみならずライダーも整備する。
早い話が、機体のメンテをしに来るついでに、店主が常々作りすぎる飯のおこぼれにありつける整備屋である。
飯だけの利用も歓迎だが、この店にはメニューはない。店主が作りすぎたその日の飯が出されるだけである。

！店および店主（ENo.4）の既知可
！ユニオンに参加せずメッセで利用する体も歓迎
！ロールするキャラを推奨するかも

細かいこと：http://midnight.raindrop.jp/milliapede/union.html