ENo.0135　tears drop "heta"

　
　今度こそ、掴めるだろうか。
　早まるなと言われた以上、相応の準備をしなければいけないし、遺言じみた言葉を交わす事も赦されないけれど。
　出来るだけ、早く。
　まだ、ヒトの形を留めている内に。


―――――　EP ?　――

『仲介人の言う通り、勝つ事はそう難しい事ではないだろう』
『勝利条件はただ一つ、敵軍の殲滅。最後に貴様が生きていようと、死んでいようと、その条件が満たされたなら"勝利"の二文字で処理される』
『――軽いだろう？しかし嘆く必要はない。貴様が特別軽いわけではないのだから、そんなもんさと笑えば良い』
『……』
『我々は貴様の希望を聞き入れて、新たな戦場を与えてやった。今回も貴様の希望を受け入れよう。今回は**を許そう』
『しかし、忘れるな』
『確かに、貴様が今立つ戦場での貴様の価値は無に等しいが、我々にとって貴様は英雄なのだ』
『決して、早まってくれるな』


　耳障りなノイズ音混じる伝言メッセージは、三度の再生の後、削除されたのだと思う。

　"彼"は室内に篭るよりも人前に居る事を強く望んでいるように見えた。
　その日も"彼"は研究者達が居るそこで暇を潰していたし、その暇潰しの一つとして再生したのだろう通信機器から漏れる音声はそこそこに聞き取りやすい音量で垂れ流され、内容こそ、盗み聞く事は容易だった。何故か、それに耳を傾けている"彼"の表情を窺う事は出来なかったが。
　"彼"が機体に乗り込む前に言葉を交わした技術者曰く、"彼"は笑って『運なんだから、こればっかりはどうしようもないよねぇ』と言ったらしい。まるで、盗み聞いている者の存在に気付いて――聞いている者がいる事を願っている、みたいに。

　とんだかまってちゃんだ。テーブルの上に取り残された通信機器には音声記録など一つも残されていなかった。

　

数人の研究者と数人の技術者で細々とやっている。
何の研究なのだろうか？