ENo.0128　ジグノード・アストランド

霧の向こうに行ったあいつは、結局帰って来なかった。
帰れなくなったのか、帰る気がなくなったのか。

後者であってほしいと願い続け、
それが甘っちょろい感傷だと自覚したのは何時頃だったか。

霧の向こうに未来なんてモンはないし、
あるのは血と重油に塗れた命のバーゲンセール会場だ。
金の代わりに己の体と命を支払って、ライダーは何かをつかみ取ろうとする。
それがどれだけ愚かな行為なのかを、客観的に自覚しているやつが果たしてどれだけいることか。

きっと殆ど居ないだろう。

あるライダーは言うだろう。
「俺はそんなことのために戦場にいるんじゃない」
あるライダーは言うだろう。
「飯のタネのために戦場にいるだけだ」
あるライダーは言うだろう。
「命を散らす戦場が好きだから出撃している」

理由がどうあれ、全員が己の命を戦場に、霧に差し出しているのは同じだ。

俺はそれが我慢ならない。
折角ライダーライセンスなんてモンを手に入れたってのに、
なんでまた自分からソイツを投げ捨てに行くんだか。
愚かだとしか思えない。


だから俺は俺の愛機だけを戦場へと送り込む。

あるライダーは言うだろう。
「臆病者め」
あるライダーは言うだろう。
「遠隔操作だなんてうまくいくわけがない」
あるライダーは言うだろう。
「自分で乗り込まなくて何がハイドラだ」

上等だ。
なんとでも言えばいい。
お前らは精々自分の命をすり減らして生きていけばいい。
俺は、そうはならない―