ENo.0208　アズナヴィール・ウスイ

同じ戦場に出ていた方が還らぬ人となったようです。
背中を冷たいものが落ちていく感覚を、久しぶりに味わいました。
知りあい――アイザックさんではなかったので、少しホッとしてしまったのは、
多分、私の中のずるいものがそうやって溜飲を下げさせているのでしょう。

私が願う機体は、パイロットが必ず戻ってこれる機体。
悲しい思いをする人が、一人でも減るよう願うもの。

それを模索しながら、戦場へと降り立っているのですから。
変な顔をする人がいるのは、仕方がないのかもしれません。


【途中で何か思いついたのか、パーツの簡易図面が書かれている】


でも、メカニックとして過ごすだけだったのなら、
今ここにいるわけではなく、あの時所長へ願書を出さなかったのなら、
私は"今日"何をしていたのだろうと、ぼんやり考えてしまうのです。
もしかしたらという言葉遊びの気軽さと、その陰にある暗いものは払拭しきれません。
…多分、拭い去らずにそのままであるほうが良いのです。
特に、私のような小心者は。

未確認機体が増えてきました。
――いえ、この戦場ではそうなのでしょう。
この戦場では、未確認なのでしょう。でも、知ってる。
私も知っています。コルボさんだって、多分…私よりずっと知っているのです。

本当の未確認機体が現れた時、
あの未確認の――フロストエンジンだったでしょうか――というものが出現したら。
いいえ、いいえ。決して。そんなことはあり得ない、そう言えたら良いのですが。
私もメカニックのはしくれとしてパーツを模索する日々ですが、
市場に新たに出回る物、出回ることを許される物は隙間を縫うように"新しい"。

これは物を作るものにとっての大打撃なんです。

発想で負けるというのは、生み出すものにとっての凶弾みたいなもの。

新しいものを取りこんでいくから、私は、私たちは、瓦礫を踏み越えて次へ走れる。
でも、エネルギーを生み出すものが、根本から新しくなるというのは銃弾などの比ではない。

この戦場だって、怪しい事は毎日毎時間のように情報と体験が飛び交っています。

新しいエネルギーが形を持って戦場に現れたとき。
その技術が不安定要素を覆すものであったとき。

私たちは旧式と化すのでしょう。
その時に、私は……


……抱えているものを、守れるのでしょうか。
　




守らねば、堕ちていくだけなのでしょう…けれど。





【何かの式が書き込まれている】


【同じような式が】



【何度も】




【…何度も】

本部を置く国以外にも正式に認可を受けて活動するボランティアを主軸にした所謂、NPO団体。

主目的は紛争地域や貧困国に対する人道支援全般。
カトリック系？の様式を基にした宗教法人でもあり、各先進国、企業からの寄付で経営されているとてもクリーンな組織。

こういった団体は数も多いため、活動内容や規模的には目立ったもので世界的な知名度はさほどでも無い。
しかし、危険度の高い地域にも積極的に参加するため、業界関係者の中では知っている人も居る、といった程度。

経営の主要層が広報活動に熱心ではないのもそれに一役買っているそうな。
なお、ボランティア以外にもそれを支える子会社も複数、所有されている。



現地での自衛のための戦闘力として自前の軍事部門や傭兵隊を組織している。

いささか過剰気味では？という批判もないではないが……

他世界における危険というものは予想がし辛いこともあり、身内、あるいは保護対象に被害が出るよりはずっとマシであるという考えに基いて戦力を保持し続けている。

非武装、非暴力主義などという寝言では、現実では誰も救われはしないのだ。