ENo.0516　如月

　パイロットをデバイス68式丁77号のコンディションチェック。

　生命維持……、規定値を下回る。
　精神安定……、規定値を下回る。

　該当デバイスの廃棄を決定。


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　戦線復帰の第一陣は無難な戦果だ。
　慎重を期すことは重要だが、大胆不敵な選択を採ることもまた蔑ろにはできない。
　デバイスの戦死を突きつけられ、私は臆病風に吹かれていたのか。

　帰還した77号を冷凍睡眠状態から蘇生し、最終記録を保存している際、
　死に体のそいつが私を鼻で笑ったように見えた。

　錯覚であることは間違いない。
　68式に鼻はおろか、呼吸器官など無いのだから。

　白昼の悪夢を見ることになった原因はわかりきっている。
　必要以上に怯えた挙句、実験体の幻に侮られるほど、
　私の自信は砕かれる寸前に追い込まれているのだ。

　こんなに惨めな思いをするのは久しぶりだ。
　近頃は順調すぎた。
　デバイスが死ぬまでは。

　私の心が立ち直るまでの、ほんの少しばかりの間に限って、
　腹いせに今後はもっと死ぬ間際に近付けて戦わせてやろう。


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　憂鬱に暮れているのは私だけのようだ。
　チームの研究員たちは、楽しげだ。賑やかすぎるくらいに。
　こうも騒がしくては業務に差し障る。

　まあいい。
　今日は特別、チーム如月復活の日だ。

　生ぬるいのは私の趣味ではないが、
　こういう時くらい、肩の力を抜いて、祝杯を挙げようじゃないか。


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　戦闘人格の変化を確認。
　いわゆる『人間らしさ』が前面に現れてきた。

　パイロットデバイスは、戦うためだけに生まれ、ただそれだけを果たして死ぬ。
　その変えられぬ宿命を背負って生まれてきた存在が、
　人間の感情を獲得し、人間のように振る舞い始める。

　感情豊かになったところで、デバイスは我々のように生きたいとは考えないだろう。
　無闇に生きたがるのは、長命の権利を持って生まれた者だけだ。
　生まれながらに極小の寿命。
　持たざるものは、求めることを知る前に死ぬ。
　パイロットデバイスが携えるのは、戦うための才能、戦い続けた記憶。
　そんな者に如月が与えられる恵みは、戦うための教育だけだ。

　悲劇とは思わない。
　我々は必要悪でここにいる。
　ここは残像領域。
　善悪などという風化した信仰を忘れた者だけが集まる世の果て。

　デバイスの嘲笑。
　あながち錯覚ではなかったのかもしれない。
　新しいデバイスに尋ねてみよう。
　先日の私は滑稽だったか、と。


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　パイロットをデバイス68式戊53号へ修理交換。
　戦闘人格および学習記録をバックアップからロード。
　コンディションチェック。

　生命維持……、正常。
　精神安定……、正常。


　さあ、出撃の時間だ。

残像領域のある場所。
ある都市のうちのひとつ、霧都市。

都市のはずれ、その中にひとつ、霧の中でぼんやりと明かりが灯っている建物が見える。

霧と混じる工房の煙。
ここは、ダガー工房。
ハイドラのためのダガーを造るための人々が集う場所。
硬質ダガーに魅せられた人々が集う場所。

今日もダガーの職人、技術者、お客、全然関係ない人。
いろいろな人物がいろいろな目的で集まっている。

その様子を工房の片隅で、
無口なバーテンが笑顔で見ている。


※説明
・ダガーユニオン
・【訓練】格闘*5　【購入】経験値+1
・雰囲気ユニオン
・片隅にショットバー