ENo.0315　リオ・B・ミナスジェライス

「何だろうな、これ」

簡易テーブルの上に広げた写真を見てぼやくおれに、モンテズマが鼻を鳴らすような声を出して（鼻なんてないのに）言った。

【きょうび画像データじゃなくて写真ですか。古風な方ですねえ】

ガレージの半分を占めるおれの機体「バーントイエロー」からモンテズマの声がした。こいつはおれ達の会話に参加したいがために、いつの間にか機体の隅にスピーカーを増設していた。一体何をやっているのだか。

「スケールが分からねえな」

おれの正面の簡易椅子にはリビーが腰かけている。彼は灰皿に煙草の吸い殻を一本増やしてから、手近な写真を手に取った。白くて丸い何かが写真の中央に鎮座している。

「もしも周りの残骸がハイドラやDRの類いだとしたら、こいつはちと桁違いのサイズだぞ」
「ああ。防衛部隊が確認できないというのも、気にかかるな。嫌な感じだ」

バイオスフェア要塞への侵攻まで、あと一ヶ月と少し。そんな中で送られてきた偵察画像は何とも奇妙で、どこか間が抜けていて、だからこそ空恐ろしかった。要塞の周囲に防衛部隊の姿は見えず、ただこの白い塊だけがある。もしかしたら辺境軍閥は、この妙な物体だけで500機を超えるウォーハイドラと渡り合うつもりなのかもしれない。

（いけないな、つい良くないことを考えてしまう）

あまり落ち込んでばかりではダメだと、この前メンテをしてくれた整備士にも言われてしまった。意識して息を吐く。気分を変えようとおれは口を開いた。

「メフィルクライア氏も言っていたが、やはりアレだろうか」
「ん？」
「巨大マシュマロ」

リビーがものすごい顔で、おれの方を見た。
……すべってしまった。

「いや、マシュマロってレベルじゃねえだろコレ」
「冗談だ」
「真顔で言われても冗談に聞こえねえよ」

どうも表情が追いついていなかったらしい。

【あっ卵！　卵だと思います私！】

おまけに横からモンテズマが茶々を入れてきたので、ますますわけが分からなくなってしまった。自分の顔はいつも以上に仏頂面になっているのだろうなと、頭の片隅でぼんやりと思う。
そんなおれの状況を知ってか知らずか、モンテズマは嬉々として囀り続けている。

【だって次『バイオ』スフェアでしょ、きっと巨大バイオ怪獣とか出てくるんですよ！】
「怪獣って、よくそんな言葉知ってるなお前」

呆れ半分感心半分といった様子でリビーが言う。これも一応打ち合わせ中だというのに、彼に申し訳なくて頭が痛くなってきた。

「モンテズマ、洒落になってない。ジョークとしては0点だ」
【ええええ、リオがそれ言っちゃいます！？】

失礼極まりないことを、少し嬉しそうに言うのだから余計に腹立たしい。バカバカしくなって椅子の背もたれに寄りかかりながら、おれは長く息を吐いた。
……椅子の脚がちょっと妙な音を立てた気がするが、一ヶ月前に買い直したばかりだし、大丈夫だろう。多分。

残像領域のあちこちに、以下のようなチラシが貼られている。

《★シトリン・マーケット　仮出店のお知らせ★

　この度、シトリン・マーケット株式会社（以下弊社）は残像領域に弊社運営のコンビニエンスストアを
　仮出店することとなりました。
　つきましては、市場調査のため消費者モニターを募集いたします。

　・住所
　残像領域〇〇地区（通称「ジャンク街」）※※※-※※-※　貸し倉庫マデイラ 103号室

　・出店期間
　先週より臨時店舗を上記住所に開店しています。現時点では終了時期は未定です。

　・参加方法
　上記住所の仮店舗のご利用
　ご利用例：弊社仮店舗でのお買い物、各種サービスのご利用
　※ご利用頂いた感想、品揃え等についてアンケートを実施することがございます。
　※これは市場調査のための仮出店です。アンケート内容は今後の運営のために使用させて頂く可能性がございます。
　　あらかじめご了承ください。

　ご不明な点、お問い合わせ等ございましたら、下記の弊社担当者までご連絡下さい。
　
　・ご連絡先
　シトリン・マーケット株式会社　マーケティング課市場調査部　残像領域担当
　リオ・B・ミナスジェライス
　（ハイドラライダー登録番号　315番　通信番号※※※-※※※※※-※※※）
　※出撃中等、ご対応が難しい場合がございます。その際は折り返しご連絡をいたします。》

■ユニオンについて
・整備メインのユニオンです。
　ユニオン購入は素材+1もしくはAP10%アップが基本となります。

・これといったユニオン活動は特にありません。参加、脱退ご自由に。とりあえずどこかに参加したいという方向け。
　参加希望の方はEno.315までメッセージでご連絡ください。次更新時に承認します。

・ユニオン参加者はコンビニ「シトリン・マーケット」の消費者モニターという扱いになります。ロール上のご利用はユニオン参加／不参加問わずご自由にどうぞ。

・このユニオンでの「お買い物」はロール上のものです。ユニオン購入以外での送金・送品は発生しません。

■店の様子
ジャンク街の片隅にある殺風景な倉庫の一室。
入口のドアの上には黄金色の派手な文字で「シトリン・マーケット」と書かれた看板が掲げられ、ドアには「※仮出店中」というメモ書きが貼られている。

中に入ると、レジに佇む自動人形が元気よく声をかけてくる。「いらっしゃいませ！」
部屋には幾つか棚が設けられ、様々な商品が並べられているが、まだ品揃えは少ないようだ。日用品や飲食物が目につくが、何に使うのかまるで分からないものも見受けられる。
二、三体の自動人形が掃除や陳列を行っているものの、どことなく暇そうである。
壁には「機体整備　ご相談承ります」とチラシが貼られている。

たまに店のロゴを背負ったサイボーグの青年が訪れ、「臨時店長」の名札をつけた自動人形と話し込んでいるのが見受けられる。