ENo.0581　Ashley F.

手術台で目を覚ます。

――死に損ねた。

　Maltonの住人は強固な呪いに囚われていた。
たとえ雨のような銃弾で見分けもつかないほどのひき肉にされようが、摩天楼の屋上から飛び降りようが、その死体は生者の肉を漁る亡者として蘇る。
　だが、生き続ける者にとってもその呪いは変わらない。町を逃れることもできず、日々死ぬことに脅える生存者は、精神をすり減らし、いずれ自分が生き延びようとしていた理由さえ忘れていく。そうして意味も無く生ける屍に銃弾を浴びせるだけの生存者の姿は、亡者以外のなにものでもない。

……俺はどちらにもなりたくなかった。
精神が擦り切れ果てる前に死ぬ手段を求めた。　
Maltonの軍事基地で手に入る重火器でさえも、呪われたオレの肉体を浄化するには足りない。
しかし、俺の知る科学の常識を超えたエネルギーなら、あるいは。


――死ねたと思ったのだがな。

　感傷に浸る間も、今の自分の状態を確かめる間もなく、出撃のサイレンが響く。
本能的に重い体を引きずり、部屋を出る。
あの女の姿はない。すでに出払っているのか。まだ生きている以上、独りで出撃させるわけにもいかない。
ガレージに向かう。俺の機体もない。あれだけ派手に爆発したなら当然だろう。
　辺りに転がっていた僚機の、おそらくスペアパーツを適当に組み立て、出撃する。


――俺が自分の状態に気が付いたのは、戦いが終わってずいぶん後になってからだった。