ENo.0261　Solitus

くあり、と。大きく欠伸をこぼす。
バイオスフェア要塞攻略の翌日。カナエは解いた髪をがしがしと乱暴に混ぜながら起床した。
バイオスフェア要塞攻略という激しい戦いはカナエたちハイドラライダー側の勝利で終わることができた。
間近で見たバイオコクーンの大きさや、最後に聞いた辺境の軍団長の声は、今でもカナエの耳に強く焼き付いている。
――まあ、耳に焼き付いているから、出陣に恐怖を抱くようになったのかと問われたらそれは違うが。

「……、……」

隣でまだ眠っているソーナを起こさないように気をつけながらベッドを離れ、ふらりとした足取りでカナエは寝室として使っている部屋から離れる。
ソーナはあの戦いでいつも以上に歌って、いつも以上に頑張っていたからもう少し眠っているだろう――その分、彼女の中の何かが削れてしまったのかと思うと、少し申し訳ない。
いつもぐらいの出力だったら何かを犠牲にすることはないけれど、あれは確実にいつも以上に力を歌にのせていたから、きっと、何かが犠牲になっている。
それが視力なのか、聴力なのか、はたまた別のものなのかは、これからのソーナを観察して判断しなければいけないけれど。

「……、……ん。……いきてる」

鏡に映った自分自身の顔を見て、確認するように呟く。
生きてる、生きている――あの激戦の中に飛び込んで、自分もソーナも生きている。
少し遅れてぞくぞくとした快感じみた衝動がカナエの全身を駆け巡り、思わず口元に歪んだ笑みが浮かんだ。
激しい命のやり取りの中で生き残った、生き残れた、あの中で――！

「……、……ははっ。……これだから、やめられないんだよなぁ。危ない仕事は」

掃き溜めの街で生まれた自分が、両親に先立たれてたった一人だけになってしまった自分が、生きていると強く実感することができる瞬間。
自分でも普通とはかけ離れていることはわかっている、おかしいという自覚はある――だが、やめるのはできそうにない。
だからこそ、ソーナに付き合わせるのは申し訳ないし、できるなら大人しくしていてほしいんだけれど、ソーナもソーナで頑ななところがあるのはよくわかっている。

「……なら、お互いにギリギリの楽しさを味わうしかないよね」

鏡の中のカナエがいつも浮かべている笑みを浮かべる。
いつもよりも静かな朝、出陣の時間はじわじわと迫ってきていた。