ENo.0038　『至極の悪夢』ハンブルグ・ダーウェン

21週目。
アメジスタに押し切られ、渋々コロッセオに参加することになった。
出撃直前の今、それは却って良かった選択だと、そう思っている。コロッセオ自体に、いい思いがあるわけではないが。
…しかし。この一週間、戦略を共に練り、勝利を誓い合いあった多くのライダーとの出会い。それだけで、そんなものはどうでも良くなった。
肩を並べて戦場に並び立つ機会なぞ、自分はそう多くなかった。早くから無双の戦力として数えられた自分は、誰かと連携して戦場に臨むことがほぼなかったが故に。今、俺はとても熱く滾っている。
…さあ、行こう。相手に悪夢を齎し、味方に歓声を与えるのが俺の役目。それだけは、昔からずっと変わらないから。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―――ハンブルグ・ダーウェン『残像記』より




※※※




『むー……』
「そうむくれんな。分かってただろうが、あのコイルの精度はよ」
『主、貴方なら当てられるでしょう？』
「老いぼれに無茶言うんじゃねえ」

出撃直前。愛機『ヴィオラーケウス』に次々とアセンブルされていく火器を見ながら、アメジスタは不機嫌そうに話しかけた。
今、アセンブル真っ最中の火器は…当初予定していた放電コイルではなく、電磁アンテナ。とりわけ機動性の高いハイドラが揃う敵軍に対し、有効な手段だ。
勿論、放電コイルも１つは積んである。しかし、当初の予定であった放電コイル×3という案は完全にボツとなった。

『にしても…まさか、アレを積むことになるなんて。一生縁がないパーツだと思っていたのですけどね』
「アレな…色々新鮮な機体になったもんだ」

空いたHCSのラスト1枠。そこには本来FCSが搭載される予定だった。しかし、実際に頼んだパーツは…『頭』。撃墜寸前の相手をスキャンし、墜とすハイエナの如きパーツ。敵の頭数を徹底して削ぎに行く構えだ。
ふと、アメジスタ宛に通信が届いた。確認するまでもなく、伸びてきたアームの先にある通信機を耳に当てる。

《いよいよ出撃だな。私が攻勢を残らず止める、墜とすのは任せたよ。何、最後には私の防御性能が正しく証明されるさ》

この一週間、戦略の中心にいた少女からの、一方的に送られてきた通信。…分かっている、彼女が墜ちないハズがない。それでも、勝気な通信を寄越した彼女に、こちらからも一方的に通信を送った。

《任せろ、期待には応えてやる。老いぼれと舐めた奴から風穴開けてきてやらぁな》

彼女がコレを聞くかは知らない。それでも構わない。言いたい事は、とっくにあの談合へ置いてきてある。通信機を耳から話すと、アセンブルが完了したヴィオラーケウスの操縦棺に乗り込んだ。

「準備完了だ。行くぞ、アメジスタ」
『了解。固定ロープバージ、HCS接続異常なし、エンジン正常運転を確認。ヴィオラーケウス出撃可能、行けます！！』

アメジスタによる最終チェックがグリーンで通った瞬間、推進レバーを思いっきり引く。

「システムオールグリーン、了解。ハンブルグ・ダーウェン、出撃する！！」

今日は一段と、操縦棺の乗り心地が良い。そんな感想も、駆動音に掻き消された。
……狂乱の闘技まで、あと僅か。

Cadenas射撃部になりました。