ENo.0588　アユー・ドルイド

「……え………？」
それを見たとき、何も言葉が出なかった。
いや、実際今までの中で一番頑張ったつもりではいるし、認められたことは嬉しいのだけど。
…いくらなんでも、そこまで行くとは思ってなかった。

＋＋＋

「…強かった。強かったね、みんな、あの戦争の中で、あんなに強く、生きてた」
割り当てられた自室の机は暖かくもなかったけど、容赦なくそこに突っ伏した。
体の震えは未だに止まらない。握り過ぎたハンドルの感触も抜けきらない。
怖かったわけではなかった。今更恐れなんて持っていられない。覚悟を決めなきゃ堕とされる。
寂しさもなかった。コロシアムでの共闘が決まった時から、その一戦に向けて歩んだ人達がいた。
たった一戦。同じメンバーが集う事は、可能性は有るとは言えど限りなくゼロに近い。
それでも、だった。ひとつ迷いもなく彼らを信じられたし、与えられた役割を精一杯果たしたかった。
「…お疲れ様、ウィルヘルム。最後まで立っててくれて、ほんとに、ありがとね」
声はきっと届かない。ここと格納庫は少し距離があるし、スリープ状態のはずだから。
だからこそでもあったかもしれない。聞こえていない、聞かせるべきでは、ないのかもしれないから。
それは紛れもない、情から来る言葉で、戦場では、判断を鈍らせる元にもなる。
戦場で生きる相棒に、かける言葉として、それは本当に正しいのか。
わからない。わからなかった、けど、言いたかった。
「今まで結構、頑張ってきたつもりだったんだ。でもね。だからこそ、かな。
…まだまだ上がいるんだって、体が理解した。…強かった。その一言に、尽きるよ。
そんな人たちがいっぱいいた。……私もいつか、あんな風になれるかな…？」
抱いていたのは、不安でも挫折でもなく、次への期待だった。
まだ上がある。まだ強くなれる。目指すところがもっと先なら、きっとそこまでなら歩いて行ける。
意味をくれた、理由をくれた、幾度目かの生に価値をくれたこの戦場を。
「…嫌いになんか、なれないよね」

＋＋＋

思わず衝撃で転がり落ちた寝床に這い戻り、一息。
打った頭が結構痛いけど、今はそんなの気にしていられなくて。
自分の戦果に驚いて寝床から転げ落ちたなんて、聞いたら僚機のあの人は笑うだろうか。
それでもいい、嬉しくて仕方が無くて、彼のおかげだって思うと、余計に。
伝えに行きたかったけど、もう夜も遅い。彼にもやることは沢山あるだろうから、それはまた今度。
次の出撃の時、一言でもいい、感謝を伝えられたらいい。彼には、また会えるから。だから今は。

外に出れば、冷たい風に出迎えられて、厚着してきたらよかったかなと苦笑する。
誰もいない星空の下、くすりと困ったように笑う声だけ、やけに澄んだそらに響いて。
ああ、今なら、届くかもしれない。置いてきた皆へ。最後まで手を伸ばしてくれた、大事な仲間たちへ。
すうっと息を吸い込んで、願うのはたったひとつ。真っ暗な夜と共に、…届け。

「空戦部隊『Fairy Bell』へ」
「メディ司令官、魔術師代表ロウィン、支援兵代表タルチア、偵察兵代表、…イスター」
「…空戦騎士代表、アユー・ドルイドより、申請」
「―――アユー・ドルイド及びウィルヘルム・ストーリア、両名の出撃と」
「―――《Mist Of War》への参加許可を」