ENo.0304　霧生

ノラというのは、誰だったろう。


通信は全て聞いている。だが、記憶には驚くほど残っていないように思えた。
仲介屋の苦々しい顔が脳裏に浮かぶ。


この残存領域の、幾度目かの転機なのか。それとも単なる杞憂なのか。
分からないが、僕の心は落ちついていた。


『終わった世界から来た、終わった夢の残り滓……そんなものが気にすることなど何もない』

『そうだろう』


…………。


「いいや」

「ブリーダーになりたかったと言っていた」

「あれは嘘じゃなかったんだと思う」

それは、ハイドラのガレキの山中に隠されている。
霧と油の匂い立ち込める廃屋。その地下――

厳重な扉の先には、ずらりと等間隔に並べられた部品。
地上のガラクタから使えそうな物を吟味、修正、再加工したハイドラの素材群。
ランタンの明かりがそれらをオレンジに照らす。


隣接するのは対照的に散らかり放題の生活居住区。
散らばるゴミ。破れた寝袋。積まれた本。
部屋の片隅で眠る子供。

そこは名無しのジャンクベース。