ENo.0008　エリカ＝ヒースハイデ

「未完成のあいつが出撃してしまう前に完成させなくては」
「……何を？」

突然口を開いた巻き毛の女に対してエリカは率直な疑問を向けた

「エリカさん。私、伯父さんがいたんです。私がまだ小さい頃に亡くなってしまったんですけど」
「はあ」
「昔よくその伯父さんに遊んでもらってて……　あの人、猫が大好きだったんですよ。
　私も伯父さんの影響で、猫が大好きになりました」
「……」
「……ねえ、この話、誰にも内緒にしてくれますか？」

巻き毛の女は真剣な顔つきでそっとエリカに囁きかける

「……ん」


「ハイドラについての詳しさを見込まれて、あるハイドラのテストパイロットを受けたって話を聞かせてくれたんです。
　でもそのハイドラは癖が強くて……伯父さんでもなかなか乗りこなせなかった、らしくて。
　あれでは多分正式なパイロットはつけられないだろう、って言ってました」

「それで私、……なんだかすごく悲しくなって。伯父さんからちょっと話を聞いただけで、そのハイドラがどんな形で、どんな性能で、どんな名前かも何も知らないのに。
　……その子がずっと一人ぼっちでいるのは、嫌だなあって思って」

柔らかくカールした栗色の髪がエリカの頬に触れる
エリカは巻き毛の女に抱きしめられていた
巻き毛の女の肩に顎を乗せながら　エリカは彼女の背に腕を回す
彼女の髪はとても暖かい匂いがした　その匂いは霧と雪に覆われる世界とはどこか不釣り合いで
……『おひさまの匂いがするね』　とエリカの中で《彼》が言った

「……私、ハイドラライダーになりたかったんですよ。その子のパイロットになってあげたくて。
　……そばにいてあげたくて」


「そうか」
「はい」
「……ありがと。お姉ちゃん」

巻き毛の女は勢いよくエリカから離れた
薄紅色の瞳はじっと巻き毛の女を見つめている　その意図は読み取れない
彼女はぱちくりと目を瞬かせ……

「エリカさんっ！！！」
「うわっぶ」

押し倒す勢いでエリカに飛びついた
非力な上に特に身構える事もしていなかったエリカはまんまと彼女の下敷きとなる
素早く後頭部に添えられた腕のおかげで床に頭を打ちつける事はなかった

「んふふ～～～～エリカさんかわいいです……　私がエリカさんのおねーちゃんですよー。えへへ…………」

猛烈に頭を撫でられる　人前に晒すのは憚られるほどとろけきった笑みを浮かべる巻き毛の女
彼女は猫を撫でている時と似たような顔をしていた
いや……それ以上に溶けているかもしれない
どちらにせよ重症であった

「お姉ちゃん」
「は～～～～～～～～い」

どうやらだめそうだ
エリカは困惑するほかなかったが……悪い気はしないため　そのまま大人しくしている事に決めた
なおその後雪を被りながら帰ってきた技師に見つかり微笑ましいものを見る目で見られたという

*にゃー*