マルチプレクサ。

　その機体名は、『無型の』と称されたときから確立していた、想定されたシチュエーションに対して、柔軟性のあるパーツ選択を行い、常に最適な機体での戦闘を行う、その意思表示としての機体名だった。多様、複合。そういった意味合いを帯びた機体名。

　その一方で、情報通信分野においてのマルチプレクサというものがある。それは、複数の入力信号を一つの信号として出力する回路だ。例えば、一つの伝送路において、複数の通信を行う、そういった装置だ。

　あえてこのマルチプレクサという機体名を、再解釈するのならば。
　いまや私にとって、いや、あるいは初めから、『意識』と『無意識』という信号を、一つの『動作』として出力するための装置、と言い表すことが出来るだろう。
　私の持つ知識、判断。積み上げてきた技術。それを意識として携える一方で、私は一切が霧の中にあることを知る。それを無意識と呼ぶべきなのかは、いまだにわからない。しかし、確かにあらゆる動作は私の手によってなされたものだ。確かに私はそう操縦桿を捌いた。引き金を弾いた。後から解釈するならば、それは確かに、私の手によってなされたものだ。しかし、それは意識的に導き出されたものではない。自分以外の何かがそうしたか、あるいは全くの無意識がそうしたと言わざるを得ない何か。
　それは霧の中だ。

　その霧の中に振る舞うための装置、それがマルチプレクサだ。
　それが私の、ウォーハイドラに乗る理由。
　システムを起動し、異常がないかを確かめ、身体をロックし、再度異常がないかを確かめる。オペレータのオールグリーンの合図、領域に到達し、しばらくして作戦は開始する。
　その全ての手続きは、ただその瞬間にある。
　私の在と不在は多重化される、霧の中に。
　それが開示されるのはただ一つの結果として、作戦が終了し、そこに残ったものとして現れるのみ。

　深い霧の中、銃弾は飛び交う。光刃は閃く。
　あまたの機械、生物が、その混沌に振る舞っている。

　私はただウォーハイドラに乗る。
　ただ撃ち、ただ斬る。

　それ以上に何もない。