ミスト・アヴェンジャーⅡとレーダーに示された名前を見て、ああ出会ってしまった、と思った。デートと称してミッションに着いてきたその機体は、今、視界を埋めつくさんとする程の数のバイオ兵器を引き連れて、私と先輩の前に立ち塞がっている。各地でテロ行為を引き起こしていると聞けば、このまま逃げることも放っておくことも出来ない。生きていく為、元居た世界に帰る為、傭兵隊の皆に恩を返す為、先輩の足を引っ張らずに居たいが為、自分の為―――色んな動機でこの14日間、クトレットラ、ウォーハイドラに乗ってきた。最後の最後に“ロボットものによくあるヒーロー的展開”が巡ってくるというのが、何だか王道ゲームの熱血展開っぽくて、ほんの少しだけ笑ってしまった。

　残像領域に来てから、ハイドラ乗りになって戦った今日までの2週間、大きくも小さくもよく笑った気がする。前みたいにめそめそと泣かずに居られたのは、あの時より少しは、強くなれたからって思ってもいいのだろうか。操縦席に置いたままの、ぼろぼろになった地図帳を見る。ちょっとだけ飛び出したピンク色の付箋を指で引っ張って、取る。ミスト・アヴェンジャーⅡに勝つことが出来たら、あのページを開くことはやめよう。不可思議な現象って言うものが本当に起きて、それが想像通りで、私を呼んだとしても。変わらぬ日常が口を開けて待っていたとしても。迷い込んだその日に戻れたとしても、此処での経験を無かったことにされるぐらいなら、私は、どうせ帰るなら、帰れるとしても、私は……此処に戻ってこれる絶対の保証が欲しい。私は、まだ、此処に居たい。

　身構える先輩のその後方に陣取って、霧の魔物に火炎放射器を向ける。ひとつふたつ、息を吐いて吸う。クトレットラがきしりと小さく鳴く声を漏らす。隊長にまだまだ甘いと称された戦う為の作戦を、必死に頭の中で思い描く。ひとりで戻ってこれても仕方がない。ふたりで、先輩と一緒に、何も失わず“故郷”へ戻らなければいけない。

「せんぱい、」

　震えた声が、モニタ越しの先輩に届いたことだろう。笑われたかも知れない。

「頑張りましょうね！」

　言うにこと欠いて出た言葉はいつも通りで、我ながら気が抜けてしまう。緊張感がないと怒られてもそれはそれだ。指先に力を込める。霧の向こうの機体を見つめる。小さく名前を呼ぶ。…

　静寂を切り裂くように放たれた炎が、白く煙る視界を焼いた。