「なあストパー。お前の名前は何て言うんだ？」

　＊　＊　＊

「……アンナ」
「怒らねえんだな。名前知らなかったのを」
「いえ別に。それよりもフローライトの実装についてですが」
「アンナ、今夜は」
「いえ、今日は家で寝たいので」
サンダウンの脚部が換装される。仮設モノとは違う、明らかに職人の手がけたパーツだ。返答に対して無言でメカニックの手さばきを眺める。ふと、婆さんが作戦前に言ってた新作パーツの「いわれ」を思い出して背筋が凍る。

（ある男のウォーハイドラさ。素材系のメーカとコネがあって、何かしら目新しいものが積まれていた。腕はいいが手グセの悪い男でね、女を食い物にしていたよ。専属のメカニックの女を恋人としていたんだが、ある日痺れを切らしてね、そのメカニックは緊急離脱装置の機能を不全したんだ―――第四回結果パーツリストより）

「……動作チェックと、念のためオーバーロードの負荷テストもだ。こいつには恐らくそれなりのブースターとデュアル・ミストエンジン構成が載る」
「これまではそれに加え、パルス反動耐用テストも行っていましたがそちらは必要ないと？」
「いや、今までので十全だ。今まで通りで頼む」
ストパーが細目でちらりとこちらを見、直ぐにコンソールへと視線を戻す。年代物のグリーンのアルファベットがずらずらと上へ登っていく。
「ここに採用の際、教わったことがあります。……」
女は操作の合間に俺に向かって話し掛けた。操作のたび途切れ途切れに。
「……ライダーの技量が問われる場所が機体としての完成度であるなら、メカニックの技量が問われるのもそこだと。耐用信頼性であるなら耐用信頼性、……万別、ライダーがハイドラに期待する要素を、ライダー自身が確認するときがそのお披露目の場所なのだ、と……」
アンナが椅子を立つ。通電テスト用の器具を取り出し、梯子を上って行く。
「グレースさんからは貴方のそれがどこに重きを置かれているか、自分で確認して自分で確かめろと課題を出されました。……無難な電子格闘に粒子格闘。基礎的なエンジン。やや汎用よりも重い物理格闘に、装甲三枚・ブースター。ここへ来てようやく脚部・操縦棺を換装。レーダーと頭は取り外す」

俺は煙草の灰が落ちたことに気づいて居なかった。

「貴方は無茶をするしそのうち死にます。装甲を重ねて防御するのは素人と機体負荷のリスクを心得た玄人の博打です。ですから私に求められているのは」
梯子を降りるとコンソールの前に再び戻る。クレーンが余分な鋼板を一つ取り外し、鈍い音を立てる。
「多分、安心なのでしょう、ヤクモさん」

指で挟むほどの部分も残っていないそれを灰皿へ投げ、次を咥える。
「……俺には不憫でならねえな、俺専属メカニックってのは」
アンナは動きを止め、無表情ながら少し驚いたような顔で俺に振り返る。

「本当に不憫な奴だから明日の夜は空けておいてくれよ」

メカニックは笑うでもなくコンソールへ向き直り、一たび溜息をついた音を返した。