引き金を絞る。
レーダーの捉える敵影に振り向けた銃口が、連射の衝撃に跳ねる。
銃身を手にしているわけではない。
だから腕ではなく、操縦棺に収まった身体がまるごと揺れる。

跳躍し旋回するハイドラの中にいる、その感触にあたしはようやく慣れつつあった。

肉眼とは違う映像データから、振る舞いを選択するための楽典を得る。
肉体の感覚をウォーハイドラと寄り添わせるための調律を学ぶ。

それは、おばあちゃんの歌を追いかけながら、その歌を自分のものにしていく過程に似ていた。

呼吸ひとつ、喉のふるえひとつを丁寧になぞりながらも、思考がそこから放たれるための道程。
音階を一段一段踏んでゆくのではなく、その足取りこそが美しく見えるようなステップ。
正しく歌うのではなく、美しく歌うための作法。

わたしは、《セレナーデ》を歌えるようになりつつある。

一方で、隣をゆくはずの相棒は未だ沈黙の内にあった。

帰投して《トラップ・ドア》を降りたあいつの顔色は、真っ青を通り越して白くさえ見えた。
特殊な機体だというのは聞いている。
だからご丁寧に、護衛だか監視だかのためにあたしが雇われているのだ。
でも、それにしたって、いくらなんでも。

向いてない、んじゃ、ないのだろうか。
ウォーハイドラになのか、それとも《トラップ・ドア》になのかは、わからないけれども。
それとも、例えばあたしも、《トラップ・ドア》に乗ったらああなるのだろうか。
わからない。

バイオ兵器を産む沈黙の機体。歌わないハイドラ。
あたしにはきっと乗れない。
あれに乗る勇気は、あたしにはない。

とはいえ、お金が必要なんですと笑ったあいつを止める言葉がどこにあるだろう。
あたしにだって、お金は必要だ。
あいつに何かをしてやれるほどの持ち合わせは、あたしのポケットのどこにもなかった。