先日はわけの分からん放送が垂れ流しになっていた様だ。ファストに聞いてみたが覚えはないらしく、止めようとしても無理だったようなので放っておいたが。一体何だったんだろうなアレ？


「知らないんですか？　東方の地で春先にある女性対象のお祭の歌ですよ。……もっとも、世界も異なる上にこんな地で聞けるとはさすがに予想外ですが」

「女対象の祭り？　何だそりゃ」


　何にせよ女が対象なら俺には関係ないわけだ。そりゃつまらんね。ぼやく俺に対してファストはまるで粗相した家畜でも見るみたいな視線を送ってきやがった。やめろやめろ！　何だよ興味ないんだから仕方ないだろ！？
　……にしても、女ねぇ。この世界に来てから女っ気っつーもんが無いんで正直最近は退屈だぜ。あっちで冒険者やってる間は、オフとかにイイオンナと酒を酌み交わしたりイイコトしたりして楽しめたもんが、こっちじゃそんな余裕もねぇ。まず機体の扱いを覚えねぇとだし、慣れない環境で身体が鈍っちまわない様に動かしたりしてねぇとだし、ついでにいえばむさっ苦しい環境だしで三重苦にも程があるってなもんだ、

　こうなってしまうと、あっちの世界に残した『アイツ』の事が恋しくなっちまうってなもんだぜ。下手な男より腕はたつし俺に対する態度はファスト並にセメントだが、まあ目の保養にはなるからな。


「なぁ、ファスト」

「何ですか。私はこれから新しいパーツの作製に入る所なので忙しいんですが」

「……エールステゥ、元気にしてっか気にならねぇか？」

「……」


　俺に対しての冷遇も、この時ばかりは多少緩む。まあコイツも結構な外道思考の持ち主だとは思うが、何だかんだで人の子だ。血を分けた双子の姉の話となると多少は耳を傾ける気にもなってはくれるらしい。
　ファストは俺へとなんとも言えない表情を向ければ小さく肩を竦めてみせる。


「姉の事です。私達の心配は最低限しかしてないと思いますよ」

「まあそれは否定しないがね」

「今頃、宿で親父さんと遅い遅いと文句を言っている頃合いじゃないでしょうかね」

「……」


　それだけだろうか、と俺は思う。
　コイツに負けず劣らず、あの姉も大概行動派だからだ。

　俺とファストの請け負ったあの依頼に関しては親父さんも知っている。聞けば依頼主もわかるし、会って話をすれば詳細や俺達が訪れた遺跡の場所だって知れることだろう。もしかしたら、その情報を辿って俺達が厄介事に巻き込まれる原因になった『星海ゲート』をエールステゥは調べてくれるかもしれない。そして、この異変の原因を突き止め、帰るための道筋を見つけ出してくれるかも……？
　もっとも、コレは俺の願望でしかない。実際の所、確かに研究者としては優秀だがそんな簡単に調査して理解できるシロモノなのかは正直怪しいだろう。こっち側の遺跡を調べたファストが、険しい顔をしていた事からしてもそれは明らかだ。


「揚げじゃが食いてぇなぁ。宿の親父の手製のをな。エールと一緒によぉ？」

「……そうですね」


　俺の呟きに、珍しくアイツは同意を示す。
　どれだけ好奇心を奮い立たせるものがあろうとも、やっぱりアイツも帰りたいんだな。ふと、そんなことを思った。