通信先の女性の声は「ジンメル＝ミスティア＝サーゴ」と名乗った。
そして直ぐに「ジメサゴ」と呼んで欲しいと付け加えた。
理由は長ったらしいから、とのこと。

どうやら博士の実験のお陰でジメサゴは助かったらしく、真っ先にお礼を頂いた。
そのため、こちらに敵意は無いようだった。

私達が今の今迄気を失っていたことを打ち明けると、ジメサゴは現状について色々と説明をしてくれた。
また、とても怪しい私達の素性についても必要以上に詮索はされることがなかった。

ジメサゴから伺った情報をまとめると以下になる。
★ジメサゴを追った敵性ハイドラと交戦中に、残像領域特有現象「渡り坑」が発生し、我々はそれに飲み込まれてしまった。
　その結果このよくわからない場所に放り出されてしまったこと
★ジメサゴの機体は、本人の都合によりミストエンジンではない動力源を持つこと
★＜トモサリ＞の右腕武装がジメサゴの機体に混ざってしまった。
　一方、＜トモサリ＞の右腕にはジメサゴの機体に搭載されていたパーツが混ざってしまったこと。

ジメサゴからもたらされた情報は、私達だけでなく我々を大いに驚かせるものであった。
　まず、「渡り坑」について。
こちらは耳にしたことはあるが、実際に遭遇し、ましてや生還するなどとは思ってもみなかった。
我々は相当幸運に恵まれているようだ。
　次に、ジメサゴの機体については、私達には非常に納得できる答えだった。
博士がジメサゴを実験対象と捉えていない理由には、これで十分だった。
　最後に、パーツの入れ替えについては、もう考えるだけ無駄だろう。
《傲造》に詳しく見てもらった結果、武装の替わりに搭載されたジメサゴのパーツとは回路すら繋がっているらしく
やろうと思えば稼働させることもできるようだ。
だが、どうやらジメサゴの機体に混ざった右腕武装とも繋がりは切れていないらしく、計器の反応は残っているようだ。
このような不可思議な現象も「渡り坑」を通った影響だとは思えば、納得できない話では無い。
私達のような存在がそのような事を考えること自体の歪さに少し噴き出してしまった。
世界というものは、得てしてこういうものなのかもしれない。

私達のことについては、機密などという便利な言葉を使ってぼかしてしまった。
尤もきちんと説明をしたところで信じてもらえるはずも無く。
現状において、そしてこれからもその必要は無いだろう。


これからジメサゴは心当たりのある補給ポイントを目指すようであり
道中を一緒に行かないかと誘われてしまった。
本来であれば、私達の実験において生身の共連れなど考えられないため、断るところだが
ここに来ての問題は、＜トモサリ＞の右腕からジメサゴの機体へと移ってしまった武装である。
あれは博士の実験には必要不可欠な武装であり、かつそのために製造されたオーダーメイドパーツである。
あれを取り戻さねば今後の実験に支障をきたす。
また、繋がりが残っている特殊性もそれを後押しする。
＜トモサリ＞の全身を廻るオリハソツカは血流の様に機体を循環しているわけだが、右腕も当然循環経路である。
その繋がりが何故か残存しているため、オリハソツカの循環は途切れておらず、こちらの循環に今のところ問題は無い。
但し、機体間に物理的な大きい距離が開いた場合、この繋がりが途切れないかどうかはわからない。
もし循環が途切れようものなら、＜トモサリ＞の稼働自体に多大な影響を及ぼしてしまうだろう。
ゆえに、あの武装を取り戻すための設備のある所まで、共に行動する必要が生じた。

ジメサゴの機体に対しては、依然として博士が大人しいため忘れそうになるが
私達がこうして健在な以上、博士もまた健在であるということは忘れてはならない。
つまり、博士がいつ実験を始めるのかはわからないし、その時にジメサゴを見逃すとは限らない。
だからこそ、ジメサゴの機体から武装を取り戻し別れるまでは、極力実験対象との交戦は避けたいと考えている。

実験に犠牲はつきものだが、このような我々にジメサゴのような生身の人間を巻き添えにすることは、良くないと私達は考えている。



我々が移動を開始してしばらく経つと、不埒な敵機が我々を取り囲んだ。
古い紛争地帯であるここらを隠れ家としている山賊のようなやつらのようだ。
罵声が飛び交う開放通信に辟易する。
このような輩に我々の道行きを邪魔させるわけにはいくまい。
私達と彼の名誉に懸けて。
「ジメサゴには十分注意を払え。･･･それでは＜実験開始＞」